Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
【着いたよ】

メッセージを見て、小夜はすぐさま返信する。

【はい。今行きますね】

まとめておいた荷物を手に、急いで部屋を出る。
時刻は二十三時を回っており、辺りは静まり返っていた。

エントランスから少し離れた暗がりに想の小型のSUVが止まっているのが見えて、小夜はタタッと駆け寄った。
想が中からドアを開け、小夜は素早く乗り込む。
ふう、と息をついてから、想を見上げて笑いかけた。

「お疲れ様。演奏、とっても素敵だったよ」
「聴いてくれたのか?」
「もちろん。ファンクラブに入ったから、出演情報もバッチリよ」
「ははっ! ご入会ありがとうございます」
「どういたしまして。新参者のファンですが、末永く応援させてください」

おどけて笑い合ってから、想は早速自宅マンションへと車を走らせ始めた。

「大丈夫かな。私と一緒にいるところ、週刊誌に撮られたりしない?」
「地下駐車場には誰も入って来られない。そこからエレベーターで直接部屋のフロアまで上がるから。あ、その時は後部座席にいて。窓にスモーク貼ってある」
「うん、わかった。今のうちに移動しておくね」

信号待ちの間に、小夜は後ろのシートに移動した。

「まあ、誰も俺のことなんて追いかけてないと思うけどね」
「なに言ってんの! そんなこと絶対にないから」
「けど、もし撮られても構わない。俺はこれからもずっと小夜と一緒にいるんだし、隠すようなやましいこともないんだから」

至って真剣な口調の想に、小夜は嬉しくなる。
だがそれではいけないと気を引き締めた。

「あのね、私この間ホテルで本田さんに会ったの」
「ああ、聞いた。小夜とつき合うことにしたって、俺からも言っておいたから」
「そう。でも本田さんの為にもファンの人たちの為にも、やっぱりこの関係は世間に知られない方がいいと思う。本田さん、ずっと想について一緒に売り出してくれたんでしょう? やっとここまで来たのに私とのことが広まったら、ファンの人たちはきっと怒るし、悲しむと思うから」
「それでファンが離れていっても、仕方ないと思ってる。だけど小夜に嫌がらせの矛先が向いたり、マスコミに追いかけられるのは許さない。小夜を守る為に、しばらくは秘密にしておいた方がいいな」
「うん。ごめんね、私がもっと想にふさわしかったらファンの人も納得させられて、秘密にするなんて後ろめたいこともせずに済んだのに」
「なに言ってんだ。俺が小夜を選んだんだ。小夜しかいない。誰がなんと言おうと、どんな状況に陥ろうと、俺は小夜だけは離さないから」

力のこもった言葉に、小夜は胸がいっぱいになる。

「ありがとう、想。私も想を守りたい。そういう存在になれるように、がんばるから」
「がんばる必要なんてない。小夜は俺のそばにいてくれるだけでいい。本当にただそれだけでいいんだからな」
「うん、わかった」

バックミラー越しに微笑み合う。
やがて大きなタワーマンションが見えてきた。
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