君と進む季節

7.距離を越えて

キャンパスが秋の空気に包まれた頃、文化祭の準備が本格的になってきた。
日に日に会議や作業が増えて、忙しい毎日。
君とは違う班になったけれど、時々同じ会議室で顔を合わせた。

テーブルを挟んで数人越しの、少し遠い席。
話す余裕はなくて、議題はどんどん進んでいく。

一言も交わさないのに、
同じ空間にいるだけでなんだか嬉しい。

会議が終わって、君が誰かに呼ばれて席を立つ。
その後ろ姿をつい目で追ってしまう。
「話したいなぁ」って、心の中でそっとつぶやいた。

忙しくなる前の夜は、たまに君とくだらないことで電話して、
「明日どこ集合?」なんて他愛ない会話をしていた。

今はスマホを握ったまま、君のアイコンを眺めるだけ。
結局何も送れずに画面を伏せる。
夜の散歩が増えたのは、頭をすっきりさせるため。
君もきっと忙しいんだろうな。
だから今は自分の気持ちを抑えるしかない。

文化祭の会議で君と同じ部屋にいられる時間だけが、
何でもないふりをして君を見ていられる、ささやかな余白だった。

たまに目が合うと、俺はふざけて君にしか見えないように片目を閉じる。
君はほんの少し驚いた顔をするけど、すぐにまた笑う。

会議が終わって、廊下ですれ違ったほんの数秒。
君が小さな声で言った。

「文化祭終わったら、ゆっくり話そうね」
< 7 / 11 >

この作品をシェア

pagetop