君と進む季節

8.秋風の中で

大学の文化祭が終わった帰り道。
人混みを抜けたあとのキャンパス前の並木道には、ひんやりした風が吹いていた。

さっきまでの賑やかさが嘘みたいに静かで、ふと隣を見たら、君が俺の顔をちらっと見上げた。

「文化祭、無事終わったな」
俺が言うと、君は小さく笑って、
「うん。やっとだね」って、ちょっと安心した顔をした。

前に君が言ってた「終わったらゆっくり話そう」って言葉が頭をよぎる。
でも、わざわざ口に出さなくても、今こうして二人で歩いてるだけで、なんとなくわかる気がした。

「なぁ、これからでええやん」
何がってわけじゃないけど、全部ひっくるめてそう言ったら、君は目を丸くしてから、すぐに笑った。

「ねぇ、ちょっと寒い…」
そう言って、肩をすくめて俺を見る。

「しゃあないな」
羽織ってたパーカーを脱いで、君の肩にかけた。

「ありがとう」
君はぶかぶかの袖を指先でつまんで、「あったかい」って小さく言った。

「風邪ひくなよ」
なんて言いながら、内心では
お前がおらんとこで俺が風邪ひくわなんて思ってた。

家に帰って脱いだパーカーを拾い上げた時、
微かに君の匂いが残っていて、顔が緩んだ。

ちゃんと話すのは、たぶんまだもうちょっと先だ。
でも今日はこれでいい。
ええ夜やなって思いながら、眠れないまま、パーカーを抱えてベッドに転がった。
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