レンタル彼氏の真白先輩と初恋リトライ
2話
リテンション
○カフェ店内(昼)
賑わっている店内で、向かい合って座る二人。
真剣な表情の千紘と、気まずそうに視線を逸らす遼二。
遼二「えーっと……今日はこれで解散にしない? キャンセル料ももちろんとらないし、なんだったらここまでの交通費払うし」
千紘「結構です。話すことはたくさんあるので。あの、真白先輩――」
遼二「ストップ。真白じゃない、リョウ。プライベートの話をするならそれこそ規約違反で俺はもう帰る」
千紘「っ……」
千紘(つまり「真白先輩」として話しちゃいけないってこと? レンタル彼氏やってる理由も、大学のことも聞けない……)
遼二「レンタル彼氏なんかじゃなくて、さっさと本当の彼氏でも作ったほうが――」
千紘「わかりました。プライベートなことは聞きません」
遼二「ん?」
千紘「帰りませんよ。お金を払ったんだから、ちゃんとレンタル彼氏やってください」
覚悟の決まった千紘にぽかんとする遼二。
千紘(今はお客さんでもなんでもいい。やっと会えた真白先輩なんだから、繋がりを断ちたくない)
深いため息をつく遼二。
遼二「……わかった」
○繁華街・路上(昼)
店の外に出て。
面倒そうだった遼二は急ににっこり笑顔に。
遼二「じゃあ、行こうか――千紘」
千紘「っ……!」
不意打ちの名前呼びにドキリ。
千紘(そっか、彼氏ってそういう……)
遼二「千紘はどこか行きたいところある? どこでも付き合うよ」
千紘「あ、あの、千紘じゃなくていいです。文原って呼んでください」
遼二「え?」
千紘「き、緊張するので……」
遼二「んー……やだ」
いい笑顔でさくっと拒否される。
遼二「彼氏なのに名字で呼ぶわけないだろ。千紘もリョウって呼んで」
千紘「い、いや、でも……」
突然手を恋人繋ぎされる。
千紘「っ!?」
遼二「行きたいところ、特にないなら俺が決めるよ」
歩き始める遼二。千紘は真っ赤になって固まったままついていく。
千紘(レンタル彼氏って、こ、こんな……!?)
千紘(お金で買った時間だってわかってるのに、どうしよう、嬉しい……)
にやけそうなのを噛み殺す千紘。
千紘M『本当はずっとこうして真白先輩の隣を歩きたかった』
遼二「じゃあ、まずはここ」
千紘「え?」
繁華街から少し離れた路地。住宅が建ち並んでいて閑静な雰囲気。
遼二は生け垣を覗き込む。
遼二「ニャー子」
呼ぶとトラ猫が出てくる。
遼二「名前呼んだやつには撫でさせてくれる猫ね。千紘も、ほら」
千紘「ニャ、ニャー子?」
遼二が撫でているのを真似て千紘も撫でる。猫は気持ち良さそうに喉を鳴らす。
千紘「かわいい……」
遼二「あとはこっち」
千紘「え、はい?」
さらに歩いて行く遼二。
そこにはレトロな雰囲気の古書店が。
遼二「洋書の種類が多い古本屋。学割も効く」
千紘「最高じゃないですか……!」
目を輝かせる千紘。
それを見ていた遼二は優しげに目を細める。
遼二「変わってないね」
千紘「え?」
遼二「見ていく?」
千紘「いいんですか?」
遼二「当たり前。千紘の行きたいところに行くデートなんだから」
○古書店(昼)
中に入る二人。
色々手に取ってみる千紘を見守る遼二。
千紘ははっと我に返る。
千紘「あの、どうして私が喜ぶ場所を知ってるんですか」
遼二「自分で言ってただろ。時間がある日は猫のいる道を通って帰るとか、古本屋で洋書を探すのが好きだとか」
千紘(そんなの覚えててくれたんだ……)
嬉しさに胸がいっぱいになる。
千紘(真白先輩がどんなふうに変わったとしても、やっぱり私、真白先輩が好きだ……)
○駅・改札前(夕方)
千紘「今日はありがとうございました」
遼二「ん。もう無駄遣いはするなよ」
彼氏モードが終わり、やれやれ顔の遼二。手には千紘から受けとったお代の封筒が握られている。
遼二「そうだ、これ」
遼二がプレゼントの包みを渡してくる。
千紘「なんですか? 開けても?」
遼二「ああ」
千紘「わあ……!」
中に入っていたのはブックカバー。
千紘「素敵……いつのまに買ったんですか」
遼二「さっき古本屋で。あそこ雑貨も置いてるから」
千紘「嬉しい……あ」
財布を取り出す千紘。
千紘「えっと、レンタル中にかかったお金はこっち持ちですよね。いくらですか」
遼二「いらない。これはリョウじゃなくて真白遼二からのプレゼント」
千紘「え……」
遼二「明大入学おめでとう」
きょとんとする千紘。
千紘「どうして……」
遼二「あれ、違った?」
千紘「いえ、明大には入ったんですけど、今日は大学の話なんてしてないから……」
ふっと優しい顔になる遼二。
遼二「文原なら絶対合格してると思ったから。ずっと努力してたもんな」
千紘「先輩……」
千紘(優しいところはあの頃と変わってない)
千紘(真白先輩にもっと近づきたい、もっと知りたい……)
千紘「あのっ、また指名します」
遼二「はあ? だから無駄遣いすんなって――」
千紘「いいえ、絶対します。決めましたから」
遼二「あー、もしかして気に入っちゃった?」
にやりと軽薄そうな顔で笑う遼二。
遼二「お金次第ではもっと過激なオプションもつけられるしな」
千紘「そ、それって」
遼二「な? 軽蔑しただ――」
千紘「ハ、ハグとかですか?」
千紘は真っ赤。ぽかんとした遼二は吹き出す。
そしてぎゅっと千紘をハグする。
遼二「はははっ」
千紘「んなっ!?」
遼二「ハグは基本料金に入ってるから」
千紘「あの、ち、近いです……っ」
遼二「ほんと、文原って……」
ぼそりと素でつぶやく遼二。一瞬見せた愛おしそうな顔。しかしはっと我に返り体を離す。
遼二の体が離れても千紘は真っ赤になってわなわな震えている。
遼二「気をつけて帰れよ」
千紘を置いてひらりと手を振った遼二は帰っていく。
○大学・大講堂(午前中)
翌日。
大学の講堂にやってきた千紘。
一限目にある必修科目で、一年生がみんな集まっているので講堂は混んでいる。
みんなカードリーダーに自分のカードをかざして出席を登録してから講堂に入っていく。
千紘(夢みたいな日だったな……)
昨日のことを思い出してまだぽーっとしている千紘。
そのまま空席を見つけ座る。
隣には突っ伏して寝ている男子が。
千紘(隣の人寝てる……)
千紘「って、ま、真白先輩!?」
男子が身じろぎして、顔が見えるとそれは遼二だった。
遼二「んん……」
遼二、うるさそうに目を開ける。
遼二「げっ、文原」
千紘「どうしてここに……一年生の必修講義ですよ?」
遼二「どうしてって、去年落としたからに決まってる」
むすっとしている遼二。
千紘(それってつまり……)
千紘「真白先輩、留年してたんですか!?」
遼二「だからもう先輩じゃないんでね」
やけくそ気味に笑う遼二。
千紘(真白先輩も同じ一年生だったなんて……)
千紘「じゃ、じゃあこれからは授業かぶることも多いんですかね」
期待でついにやけてしまう千紘。
遼二「それはない。……学校辞めようと思ってるし」
千紘「は……」
遼二「将来とか目標とかもうどうでもいいから」
千紘「そんなっ、だって先輩は――」
遼二「おまけに朝、弱いんだよ。今日はなんとか起きられたけど、次からは無理だな。どうせまた一年落とすならさっさと退学した方が金もかからない」
教授「講義をはじめますよー」
千紘は頭が真っ白。そこへ教授が入ってくる。
遼二「じゃあ」
遼二が立ち上がったとき、はっと我に返る千紘。
千紘が姿勢良く挙手する。
千紘「この人サボろうとしてます!」
教授「えぇ……困りますよ。出席登録後に出て行かれちゃ」
周囲からくすくすと笑い声が漏れる。
遼二「お前な……」
うんざり顔の遼二はとりあえず席に座る。
千紘は猛然とスマホを操作し、その画面を見せる。
千紘「これ、来週のこの時間、この場所で予約しましたから」
画面はリョウのレンタルが決定した画面。
千紘「退学なんて絶対だめです」
千紘は真剣な顔できっぱり告げる。
賑わっている店内で、向かい合って座る二人。
真剣な表情の千紘と、気まずそうに視線を逸らす遼二。
遼二「えーっと……今日はこれで解散にしない? キャンセル料ももちろんとらないし、なんだったらここまでの交通費払うし」
千紘「結構です。話すことはたくさんあるので。あの、真白先輩――」
遼二「ストップ。真白じゃない、リョウ。プライベートの話をするならそれこそ規約違反で俺はもう帰る」
千紘「っ……」
千紘(つまり「真白先輩」として話しちゃいけないってこと? レンタル彼氏やってる理由も、大学のことも聞けない……)
遼二「レンタル彼氏なんかじゃなくて、さっさと本当の彼氏でも作ったほうが――」
千紘「わかりました。プライベートなことは聞きません」
遼二「ん?」
千紘「帰りませんよ。お金を払ったんだから、ちゃんとレンタル彼氏やってください」
覚悟の決まった千紘にぽかんとする遼二。
千紘(今はお客さんでもなんでもいい。やっと会えた真白先輩なんだから、繋がりを断ちたくない)
深いため息をつく遼二。
遼二「……わかった」
○繁華街・路上(昼)
店の外に出て。
面倒そうだった遼二は急ににっこり笑顔に。
遼二「じゃあ、行こうか――千紘」
千紘「っ……!」
不意打ちの名前呼びにドキリ。
千紘(そっか、彼氏ってそういう……)
遼二「千紘はどこか行きたいところある? どこでも付き合うよ」
千紘「あ、あの、千紘じゃなくていいです。文原って呼んでください」
遼二「え?」
千紘「き、緊張するので……」
遼二「んー……やだ」
いい笑顔でさくっと拒否される。
遼二「彼氏なのに名字で呼ぶわけないだろ。千紘もリョウって呼んで」
千紘「い、いや、でも……」
突然手を恋人繋ぎされる。
千紘「っ!?」
遼二「行きたいところ、特にないなら俺が決めるよ」
歩き始める遼二。千紘は真っ赤になって固まったままついていく。
千紘(レンタル彼氏って、こ、こんな……!?)
千紘(お金で買った時間だってわかってるのに、どうしよう、嬉しい……)
にやけそうなのを噛み殺す千紘。
千紘M『本当はずっとこうして真白先輩の隣を歩きたかった』
遼二「じゃあ、まずはここ」
千紘「え?」
繁華街から少し離れた路地。住宅が建ち並んでいて閑静な雰囲気。
遼二は生け垣を覗き込む。
遼二「ニャー子」
呼ぶとトラ猫が出てくる。
遼二「名前呼んだやつには撫でさせてくれる猫ね。千紘も、ほら」
千紘「ニャ、ニャー子?」
遼二が撫でているのを真似て千紘も撫でる。猫は気持ち良さそうに喉を鳴らす。
千紘「かわいい……」
遼二「あとはこっち」
千紘「え、はい?」
さらに歩いて行く遼二。
そこにはレトロな雰囲気の古書店が。
遼二「洋書の種類が多い古本屋。学割も効く」
千紘「最高じゃないですか……!」
目を輝かせる千紘。
それを見ていた遼二は優しげに目を細める。
遼二「変わってないね」
千紘「え?」
遼二「見ていく?」
千紘「いいんですか?」
遼二「当たり前。千紘の行きたいところに行くデートなんだから」
○古書店(昼)
中に入る二人。
色々手に取ってみる千紘を見守る遼二。
千紘ははっと我に返る。
千紘「あの、どうして私が喜ぶ場所を知ってるんですか」
遼二「自分で言ってただろ。時間がある日は猫のいる道を通って帰るとか、古本屋で洋書を探すのが好きだとか」
千紘(そんなの覚えててくれたんだ……)
嬉しさに胸がいっぱいになる。
千紘(真白先輩がどんなふうに変わったとしても、やっぱり私、真白先輩が好きだ……)
○駅・改札前(夕方)
千紘「今日はありがとうございました」
遼二「ん。もう無駄遣いはするなよ」
彼氏モードが終わり、やれやれ顔の遼二。手には千紘から受けとったお代の封筒が握られている。
遼二「そうだ、これ」
遼二がプレゼントの包みを渡してくる。
千紘「なんですか? 開けても?」
遼二「ああ」
千紘「わあ……!」
中に入っていたのはブックカバー。
千紘「素敵……いつのまに買ったんですか」
遼二「さっき古本屋で。あそこ雑貨も置いてるから」
千紘「嬉しい……あ」
財布を取り出す千紘。
千紘「えっと、レンタル中にかかったお金はこっち持ちですよね。いくらですか」
遼二「いらない。これはリョウじゃなくて真白遼二からのプレゼント」
千紘「え……」
遼二「明大入学おめでとう」
きょとんとする千紘。
千紘「どうして……」
遼二「あれ、違った?」
千紘「いえ、明大には入ったんですけど、今日は大学の話なんてしてないから……」
ふっと優しい顔になる遼二。
遼二「文原なら絶対合格してると思ったから。ずっと努力してたもんな」
千紘「先輩……」
千紘(優しいところはあの頃と変わってない)
千紘(真白先輩にもっと近づきたい、もっと知りたい……)
千紘「あのっ、また指名します」
遼二「はあ? だから無駄遣いすんなって――」
千紘「いいえ、絶対します。決めましたから」
遼二「あー、もしかして気に入っちゃった?」
にやりと軽薄そうな顔で笑う遼二。
遼二「お金次第ではもっと過激なオプションもつけられるしな」
千紘「そ、それって」
遼二「な? 軽蔑しただ――」
千紘「ハ、ハグとかですか?」
千紘は真っ赤。ぽかんとした遼二は吹き出す。
そしてぎゅっと千紘をハグする。
遼二「はははっ」
千紘「んなっ!?」
遼二「ハグは基本料金に入ってるから」
千紘「あの、ち、近いです……っ」
遼二「ほんと、文原って……」
ぼそりと素でつぶやく遼二。一瞬見せた愛おしそうな顔。しかしはっと我に返り体を離す。
遼二の体が離れても千紘は真っ赤になってわなわな震えている。
遼二「気をつけて帰れよ」
千紘を置いてひらりと手を振った遼二は帰っていく。
○大学・大講堂(午前中)
翌日。
大学の講堂にやってきた千紘。
一限目にある必修科目で、一年生がみんな集まっているので講堂は混んでいる。
みんなカードリーダーに自分のカードをかざして出席を登録してから講堂に入っていく。
千紘(夢みたいな日だったな……)
昨日のことを思い出してまだぽーっとしている千紘。
そのまま空席を見つけ座る。
隣には突っ伏して寝ている男子が。
千紘(隣の人寝てる……)
千紘「って、ま、真白先輩!?」
男子が身じろぎして、顔が見えるとそれは遼二だった。
遼二「んん……」
遼二、うるさそうに目を開ける。
遼二「げっ、文原」
千紘「どうしてここに……一年生の必修講義ですよ?」
遼二「どうしてって、去年落としたからに決まってる」
むすっとしている遼二。
千紘(それってつまり……)
千紘「真白先輩、留年してたんですか!?」
遼二「だからもう先輩じゃないんでね」
やけくそ気味に笑う遼二。
千紘(真白先輩も同じ一年生だったなんて……)
千紘「じゃ、じゃあこれからは授業かぶることも多いんですかね」
期待でついにやけてしまう千紘。
遼二「それはない。……学校辞めようと思ってるし」
千紘「は……」
遼二「将来とか目標とかもうどうでもいいから」
千紘「そんなっ、だって先輩は――」
遼二「おまけに朝、弱いんだよ。今日はなんとか起きられたけど、次からは無理だな。どうせまた一年落とすならさっさと退学した方が金もかからない」
教授「講義をはじめますよー」
千紘は頭が真っ白。そこへ教授が入ってくる。
遼二「じゃあ」
遼二が立ち上がったとき、はっと我に返る千紘。
千紘が姿勢良く挙手する。
千紘「この人サボろうとしてます!」
教授「えぇ……困りますよ。出席登録後に出て行かれちゃ」
周囲からくすくすと笑い声が漏れる。
遼二「お前な……」
うんざり顔の遼二はとりあえず席に座る。
千紘は猛然とスマホを操作し、その画面を見せる。
千紘「これ、来週のこの時間、この場所で予約しましたから」
画面はリョウのレンタルが決定した画面。
千紘「退学なんて絶対だめです」
千紘は真剣な顔できっぱり告げる。