私のテディベアに、私が溺愛されるまで

9

一朗はもう一度、楓の寝顔を確認すると、そっとドアを閉めた。
階段を下りてリビングに戻ると、陸が静かに立っていた。

「楓、大丈夫?」

「寝かせたよ」

陸は、リビングのソファに腰を下ろす。

一朗も向かいに座り、肩を軽くほぐした。

「……で、おまえ。飯まだなんだろ?」

「うん」

陸の声は淡々としているが、その奥には少しだけ笑みが滲む。

「しょうがねぇな。さっきの飲みの続きでもするか」

「助かる」

陸は軽く顎を引いて頷いた。

「ウイスキーあるけど、飲むか?」

「いいね」

陸がグラスを受け取りながら、ふと思い出したように視線を上げた。

「楓……ウイスキー飲んだの?」

一朗は鼻で笑いながら、立ち上がる。

「一口だけな。すぐ潰れたけど」

陸は息を吐き、目を細めた。

「無茶するな」

「ほんとだな」

一朗は苦笑しながら、陸の落ち着いた横顔を見て、昔よりずいぶん大人びたな、と思う。一朗が氷をグラスに落とし、静かにウイスキーを注いでいると、
ソファに座る陸がふと口を開いた。

「……瑠璃ねえのこと、聞いた?」

一朗の手が一瞬だけ止まった。

「何をだよ」

陸はグラスの中の水を指先で回しながら、視線を落としたまま言った。

「最近、職場の人と付き合い出したらしいよ」

一朗は反応せず、ただ静かに氷の音を聞いている。

「楓の話によると――だけど」

言い終えた陸の声は淡々としていたが、
その空気には、確かな探りと静かな問いが込められていた。

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