女王陛下のお婿さま
02灼熱の王子さま
 ――ナバルレテ国は、ハレルヤ王国から海を挟んだ南側にある軍事大国だ。以前は他国への侵略行為で名を馳せており、領土の殆どはその侵略戦争で得たものだった。

 しかし、国王が後退し現在の国王に変わると、他国との摩擦を避け侵略の手を止めた。どうやら今は、国として落ち着いたようだと、近隣諸国は評価している。

 春の長いハレルヤ王国とは違い、ナバルレテは常夏の国。国土には熱帯雨林の他に砂漠地帯も広がっているが、そんな砂漠には豊富な油田もある。そしてそれが貿易の要となっていた。

 現在の国王は、サイード・ナバルレテ。一夫多妻で、六人の妻と息子が十三人、娘が八人。

「――その九番目の王子が、ファビオ・ナバルレテ、二十八歳……」

 ナバルレテ王国の資料に目を通していたアルベルティーナは、ため息を吐きながらそれを鏡台に置いた。

「侍女たちの噂では、たいそう美男の方らしいですよ、アルベルティーナ様」

 後ろでアルベルティーナの髪を結っていた侍女長のマイラがそんな事を言った。

 もうすぐ昼になる。これからそのファビオ王子との昼食会がある為、アルベルティーナはマイラに手伝ってもらい、身支度を整えていた。

 今日のドレスは薄いピンクに赤い花柄。アルベルティーナの美しい黒髪が映えるからと、マイラが選んでくれたものだ。

「でもお気を付けくださいね、アルベルティーナ様。うちの侍女たちがもう三人も被害にあっていますから!」

「被害……?」

 昨夜滞在が決まってから、何人かの侍女たちがファビオ王子の世話についたのだが……。

 一人は部屋を整えている間にお尻をペロンと触られ、一人は今夜一緒に寝ないかと手を握られた。もう一人は、ベッドメイキングのお礼に、危うく口付けをされる所だった。

「たった一晩でそんなですので、危なくてもう侍女たちは付けられません。ですから今は、クラウスに行ってもらっているんです」
< 15 / 110 >

この作品をシェア

pagetop