あのね、先生

episode16. 伝えたい人🌙


先生の甘い言葉が、
まだ胸の奥に残っていた。


照れくさそうに笑ったあの顔が、
いつもより少し近くて。


思い出すだけで、少しだけ息が浅くなった。


……ジュースでも飲もう。


気持ちを落ち着かせるために、
飲み物が置かれたテーブルに向かった。

ゲームが終わった後も、
スクール生たちはまだ盛り上がっている。


その端のほうで一人、
ジュースを飲んでいると——


「柚葉と先生、めっちゃいい感じだったよ〜!」


美沙さんが、駆け寄ってきた。


「そ、そうですか!?」

「うんうん!やっぱり企画した甲斐があったわ〜〜」

「企画……?」


思わず聞き返すと、美沙さんは私の肩に腕を回す。


「柚葉のこと、応援するって言ったじゃん?」


そして、耳打ちするように言った。


「だから、このジェスチャーゲームを通して二人の距離が少しでも近づけばいいなって思って!」


驚きのあまり、返す言葉が見つからない。


言葉に詰まっていると、
美沙さんはいたずらっぽく笑った。


「ちゃんと柚葉が来てくれて良かった!」


その一言で、イベントのチラシを渡された日のことを思い出す。


”もしよかったら、来てくれる?”


あの時、誘ってくれたのって……


「一週間前、先生に、”よかったら来ない?”って誘われたんです。……それって、美沙さんのおかげだったんですね」


少しだけ寂しい気持ちも混じっていた。
けれど、笑顔で「ありがとうございます」とお礼を伝えた。


すると美沙さんは、

きょとんとした顔で私を見てから、
吹き出すように笑った。


「え? あたしはそんなこと頼んでないけど?」

「……え?」

「先生が柚葉に来て欲しくて、誘ったんじゃない?」


その言葉が、静かに私の中に落ちる。



先生の、意志で——?



美沙さんは、にこりと私に微笑んだ。



「……伝えたいこと、あるんじゃない?」

「えっ」



優しく背中を押される。



「ほらっ、先生のとこ行ってきな……!」



振り返ると、美沙さんが手を振っていた。

***


——先生のところに、行かなきゃ。


そう思って、教室を見渡す。
けれど、どこにも先生の姿がない。


いない………?


賑やかな教室から、廊下へと出る。
段々と笑い声が遠くなり、ひんやりとした空気に変わっていく。


私は、少し離れた休憩室を覗いた。


そこには——


スマホを見ながら
飲み物を口にする先生の姿があった。



「……こんなところで、何してるんですか?」



声をかけると、先生が顔を上げる。



「ああ、ちょっと疲れたから。休憩」



そして、隣の椅子を軽く叩いた。



「くる?」



そのたった一言が、心を揺らした。



「……じゃあ」



私は小さく頷いて、先生の隣に座った。

二人だけの静かな空気に、また胸が騒ぎだしていた。


ーーー
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