響け、希望と愛の鐘
オムライスは、素朴な卵と、デミグラスソースが優しい味だった。

店主と知り合いなのだろうか。

 ハギくんにもついにコレか、と揶揄う店主。

店主は爽やかなイケメンさんだ。

昔、どこかで会った気がするような、しないような。

まだそんなんじゃないっすよ、(まこと)さん。

店主にそう返した後輩のハギくん。

「一生アンタと恋人になんてなるもんですか。
 
ハギくん、って初日から慕われてるけど。
 私は、そんな呼び方、しないからね。

アンタ、私のことどこまで知ってるわけ?

私の機微な情報まで細かく知られてるの、気持ち悪いんだけど。

それで、そんな奴に好かれてるのも最悪」

「優美先輩、昔俺を虐めてた奴らに啖呵切って、敵増やしてたし。

今も『女性スペースを取り戻す会』の発起人として、デモしてるから敵、多いですよね。
 
俺のおふくろも、優美先輩と似たような運動をしていたんです。
 それが癪だったんでしょう。
 
誘拐された挙げ句、倫姦されたのを苦に、書き置きだけ遺して、姿を消しました。
 
数日後、身元不明の遺体が樹海で発見されて。
 近くで、俺と親父とおふくろが写った家族写真が見つかった。
 それで、何となくおふくろなんだろうな、って。

優美先輩には、そんな目に遭ってほしくないんですよ。

 投稿、いつも万バズしてる有名人ですし。

今の世の中は物騒なんで、こういう危なっかしい人は俺みたいな人が近くにいないと。

参加者殆どが顔を隠す中、優美先輩、普通に顔晒してたし。
勇気ありますよね、先輩って。

優美先輩のそういうところが、
俺は好きなんですけど」

「好きになってくれなくて結構よ。

人のこと勝手に調べて。

学生時代の通勤電車やアルバイト先でストーカーだったり性被害に遭ったことも知ってるんでしょう?

依頼者に現在進行系で付きまとわれてることも。

それなら、男の人は苦手、って想像つきそうなものじゃない?

弁護士資格があるくらいだから、
頭はキレるはずよね?

 そういう想像力はないのね。
貴方がモテないの、そういうところよ」

「玉砕だな。

 ドンマイだよ、ハギくん」

 店主に残念そうな顔で言われたのが、何だか滑稽だった。

 
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