俺様な忠犬くんはご主人様にひたすら恋をする

16

藤堂は、何かを言いかけては、やめた。
目を開いて、口を動かして、それでも何も言葉にできず、また閉じる。
それを何度も、何度も繰り返していた。

私はもう、涙が止まらなかった。
ぐっと唇を噛んでも、何の意味もなかった。
止めようとするほど、溢れてくる。

忘れたはずだった。
何もなかったことにして、違う人とちゃんと前を向こうと思っていたのに。

それなのに。
会ってしまった。
声を聞いてしまった。
キスされて、抱きしめられて——
嬉しい自分がいた。

そんな自分が、悔しかった。
本当に、本当に、嫌いになれたらよかったのに。

藤堂が、ゆっくりと息を吸った。
低く、小さく、それでもはっきりと聞こえた。

「……ごめん」

その声が、妙にあたたかくて。
優しくて、罪悪感が滲んでいて。

だからこそ、心にずしんと響いた。

もう、何も言えなかった。
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