あなたに恋する保健室

プロローグ

 保健室のドアをノックする音と共に、勢いよくドアは開かれた。
「よう」
「よう、じゃなくて」
「失礼しまーす」
「はい。何か用ですか? 舘山先生」
 舘山先生──舘山京介は大きな手を気だるげに片手だけ軽く上げて挨拶の代わりにした。
 彼は、かつて兄のように慕っていた幼馴染であり、私の初恋の人。そして今は、同じ学校で働く同僚である。
「悪い。虫かご置かせてくれ」
「京ちゃ……舘山先生? 保健室は生徒たちが休む場所です。そんな賑やかな虫かご置かれたら困ります!」
 虫かごの中では、数匹のバッタがピョンピョンと飛び跳ねている。
「ちょっと虫取りに夢中になっていたら出勤時間に遅れそうで急いできたんだよ。後で取りに来るから」
「だからってなんで毎日保健室にわざわざ持ってくるのよ! 理科準備室に置きなさいよ!」
「三階まで行くには時間がねぇんだよ」
 そう言ってほぼ毎日、京ちゃんは何かしらの理由をつけて保健室に顔を出す。
 ほんのちょっと言い訳っぽく笑う京ちゃんは、可愛げがあって許したくなってしまう。本当に私より四つも上なのか疑いたくなる。
 そんな彼に口では文句を言いつつ、こうして顔を出してくれるのが実は嬉しかったりもする。
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