お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました
彼はおどけたような口調で、けれどその目は笑っていなかった。

「まさか……皇帝からの夜伽の晩を仰せつかったとでも」

「……その通りです」

私は、うつむくようにそう答えた。

まるで罪を認めるような声音になってしまったのが、悔しかった。

すると、景文はそっと立ち上がり、すっと手を伸ばして――私の頬に触れた。

「……それは、よかったですね。」

指先が優しくも寂しく、私の肌をなぞる。

その言葉がどうしても、胸に突き刺さった。

よかった、なんて――

嘘を言わないで。

景文は手を離し、背を向けた。

まるでこれ以上、感情を見せたくないかのように。

「――違うの!!」

思わず、叫んでいた。

私は景文の背中に向かって、言葉を投げた。

「本当は……!」

声が震えながら、私の喉からあふれ出す。

「本当は……今夜限りだって、そう言われてるの!」

景文の背に向かって叫んだその瞬間、頬に、涙がつっと伝った。
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