お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました

第3章 拾われた妃

気づけば、私は――

景文の手を取っていた。

「……はぁ、はぁ……」

夜の風を切るように走った。

宮殿の外れを抜け、人目を避け、ただ黙って走った。

静まり返った道の先、やがて目に入ったのは、灯のともる立派な屋敷だった。

「ここが……あなたの屋敷?」

「……ああ」

息を切らしながら答えた景文は、私の体を迷いなく抱きかかえるようにして門をくぐった。

「旦那様、お帰りなさいませ。」

使用人の男が深く頭を下げたあと、私に気づいて目を見開く。

「旦那様……その方は……?」

「――翠蘭だ。」

景文は、私を見下ろすように優しく言った。

「……翠蘭様?」

使用人が思わず息を呑んだ。

その響きが、初めて“妃”ではなく“私”を呼んだ声のように思えて――

胸が、少しだけ温かくなった。
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