お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました
この夜、私は拾われた妃になった。

誰かの命令でも、義務でもない。

自分の足で選び、自分の意思で逃げた女として――

そして、やっと一人の“女”として、誰かの胸に抱かれようとしていた。

「……どうぞ。」

そう言って景文に案内されたのは、屋敷の奥の静かな部屋だった。

「ここは?」

私は戸惑いながら尋ねる。

「――俺の寝所だ。」

その言葉に、胸がドクンと跳ねた。

寝所。

男の、寝所。

まさか……私は今夜……?

頭では理解しきれないほどの速度で、思考が渦を巻く。

体がふるふると震えだした。

その揺れに気づいたのか、景文がそっと私の肩を抱いた。

「安心していい。今夜は、何もしない。」

その声は優しく、まるで母が子を寝かしつけるようだった。

「ゆっくり休むといい。」

そう言い残し、彼はすぐに部屋をあとにした。
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