お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました

第4章 秘密の寝所

夜、景文が仕事から戻った。

玄関で出迎えた私を見て、彼はなぜかきょとんとした顔をしていた。

「……どうした?」

「……その。」

私は少しだけ視線を逸らしてから言った。

「ここに、置いてってくれるって言ったけど……私の意思で置いてもらいたいの。」

景文は数秒の沈黙のあと、ふっと笑った。

「……ああ。」

その短い返事に、全部わかってると言われたような気がして、私は胸の奥が少しだけあたたかくなるのを感じた。

そのままふたりで、いつもの食事処へ。

座って膳を並べていると、景文がふと話題を切り出した。

「そういえば、翠蘭がいなくなった件だけどな。」

「……う、うん。」

急に現実に引き戻される。

後宮では、さぞ大騒ぎになっているはず――そう思っていた。

「――あっけなく、行方不明で終わった。」

「……えっ⁉」

思わず声が上ずる。

「……ただの、行方不明⁉」
< 34 / 100 >

この作品をシェア

pagetop