お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました
もし、そうだとしたら――

「弟たちの仕送りは……どうしよう。」

現実が胸をよぎる。

私がここにいるだけでは、金子は生まれない。

誰かの“妃”をしていたからこそ得られた役得も、もうない。

だったら。

「侍女でも、女中でも、下働きでも……」

私の手で、私自身の居場所を作るしかない。

「やってやろうじゃないの。」

そう口にした自分の声が、どこか誇らしかった。

ただ守られるだけの妃ではなく――

景文の元で生きる女として、この屋敷で、生き抜いてみせる。

庭に吹いた春風が、まるで背中を押してくれるように感じた。

そして夜。

何食わぬ顔で帰って来た景文に、私は伝えた。

「景文。私をこの屋敷に置いて下さい。」

それは、覚悟を決めた女の生き様だった。
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