姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
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1時間目の授業が終わった後の10分休憩中、広瀬真は心底げんなりした顔でイライラを抑えていた。
「ぐあああ!うるせ―――!!」
……抑えられなかったようだ。
「まあまあ。まーくん落ち着いて。
――でも確かにこれはさすがに、俺もイヤかも〜。」
そう言って困ったように廊下に面した窓を見る。
そこには廊下が見えないくらいビッシリと男女問わず新入生達が張り付いて、各々の推しに向かってこっち向いてだの連絡先教えてだの好き勝手言っている。
「俺らは動物園のパンダか!!見せもんじゃねえぞ!帰れ!」
広瀬真が乱暴にテーブルを叩いて人だらけの窓を睨みつけると、「こっち見た!」と余計にギャラリーは賑わう。
多分本当にパンダかツチノコか何かだと思われている。
ビシビシ突き刺さる群衆の視線に、思わず背筋がぞくりとする。
何かすればするだけ火に油を注ぐ状態に、深く溜め息をつく広瀬真に近づいた。
「こんなに見られるならご期待に沿わなくっちゃ。ね?広瀬くん♡」
「やめろブス!騒ぎを大きくすんじゃねぇえ!」
広瀬真の頬を人差し指で突き、可愛く首を傾げるモーションをとって見せると女共のヒステリックな悲鳴が上がる。
ちなみに指は秒で叩き落とされたけど、ギャラリーから欲しいリアクションは手に入ったから満足だ。
「ほら〜、ご覧よ涼ちゃんを。
あんな至近距離で見られて騒がれてってしてるのに、全く気にしてないよ?」
広瀬真を宥めるように、榛名聖がその肩をポンと叩く。
その視線の先にはさっきから、というか登校直後から無表情も頬杖をつくポージングも変わらない近江涼介がいた。
「近江涼介息してる?あれ、実はマネキンとかだったりしない?」
「アイツのスルースキルはもう才能だな。」
異様な光景に広瀬真も怒りを忘れて引いている。
そうこうしている間に始業を告げるチャイムが鳴って、ギャラリー達は名残惜しそうに撤退していく。
「アレ、ずっと続いたりしねぇよな?」
「まぁ、1年生達だって数日もすれば落ち着くでしょ。それまでの辛抱だねぇ。」
そう、今は物珍しさに騒がれているだけ――だと思っていた。