姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

Ep.68 ズルいよね


翌日の昼休み。

席を立とうとする榛名聖の前に立ちはだかり、奴の机に片手をついて凄んで見せる。

「ちょっと面貸しなさいよ。」

「えー、何?怖いなぁ。」

ヘラヘラ笑う顔に緊張感はまるでない。

後ろの広瀬真は困惑顔。
遠くの席の近江涼介はうんざりしている。

クラスメイト達が何事かとざわつく中、私は人気のない屋上前の踊り場に榛名聖を連れ込んだ。


「で、どうしたの?こんなところに連れ込んで。
また変な噂立っちゃうよ〜?」

真面目な顔をしている私と対峙して、真逆の態度で笑顔を崩さない榛名聖。

意味深に視線を階段下に移すと、聞き耳を立てていた野次馬が慌てて走り去る音がした。


「茶化さないで!
理由はわかってるでしょーに。」

「まーくんとのことでしょ〜?
言っとくけど謝る気ないよ〜、俺。」

口調も態度も脱力しきっている。
その割に、謝る気はないと言う主張には確固たる意志を感じた。

「別に謝るかどうかは榛名聖が決めることでしょ。
私は指図する気ないわよ。

――そうじゃなくて、私、アンタに言いたいことがあるの。」


榛名聖は緩く口元に弧を描いたまま、やれやれと肩を竦める。
ただ、茶化すことはしないから話を続けた。

「近江涼介から聞いた!榛名聖のことも広瀬真のことも。

――私もね、榛名聖の気持ちちょっとわかるところがあるの。
でもそれってさ、広瀬真も一緒……ッ!」


ガツン。

話を遮るように、私の頭上で壁に拳を叩きつける音がした。

反射的に閉じてしまった目をそっと開けると、榛名聖が間近に迫って肘をつき影を作っている。

ひやり、コンクリートの冷たさが背中に伝わる。

見上げたその表情は、笑っているけど目に光がなくて、冷たくて、怖い。


「――家族にぬくぬく甘やかされて育ってきた奴に、俺の気持ちの何がわかるっていうの?」

いつもの間延びした喋り方からは想像できない、低く冷たい声。

榛名聖は怒っている。それも、ものすごく。
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