姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
誰?それ。
私、そんな人知らない。
知らない男の名前を吐いた女は、続け様にこんな言葉を投げつける。
「山田くんを返して!」
ガシャンと頭の中で何かが壊れた音がした。
目の前の光景がぐらりと歪んで、女共が幾重にも重なって見える。
(あーあ、結局。)
一度気になったらソイツの声しか耳に入らなくなって、頭の中でH2Oの言葉と一緒に渦を巻く。
暗く重たい感情が胸を支配して、上手く笑顔を作れない。
「なんとか言ったらどうなのよ!!」
崖っぷちから突き落とされたかの様な錯覚を振り払う猶予も与えられず、リーダー格の女が負傷した私の肩を押す。
固く冷たいフェンスに昨日ぶつけた所や背中を思い切り打ちつけた。
「――痛ッ」
痛い、痛い。
私、なにもしてないじゃないか。
「痛い!離してよ!!」
薄ぼんやりと暗くなり始めた空に、悲痛な叫びが響いた。
それと同時に力一杯リーダー格の女を突き飛ばすと、構えていなかったのかソイツはあっさりと尻餅をついた。
「確かに誑かしてやったわよ!
だってアンタ達、どの道盗っただのなんだの言うじゃない!
だから……“それ”通りのことをしてやったのよ!!」
自分の怒鳴り声に脳が痺れた。
この感覚は久しぶりだ。
豹変した私の態度に、女共がわかりやすく狼狽えてざわつく。
けれどそんなこと私には知ったことじゃない。
目を剥いてフーフーと息を吐き、怒りに震える体にキツく拳を握りしめた。
――悔しい。