姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―

なんだか眩暈までしてきて、揺れる近江涼介の浴衣の裾にぼんやりと手を伸ばす。

裾の端をなんとか掴んで引っ張ると、それに気づいた近江涼介がいつもに近い顔で私の方を見た。

「花火!始まるよ!」

この呪文で彼は元に戻るだろうか?

不安が滲む表情で近江涼介を見つめ、その顔がいつもの無表情に戻るのを待っている。

「わっ!本当だ!やばい、俺も行かないと合流できなくなるわ!」

スマホを取り出した優斗が慌てたような顔をした。

「じゃ!涼ちゃん!たまには顔出してよね!
あとお母さんにもよろしく!」

爽やかにそう言うと、優斗は嵐のように去っていき人混みの中に消えていく。

ポツンと残された私達の間には、本日何度目かの気まずい沈黙が流れている。

近江涼介の表情は元通りになったけど、ゆらゆらと瞳の奥が揺らいでいる。

「近江涼す……」

「忘れろ。」

恐る恐る呼ぼうとした私の声を、小さくて低い、でもちゃんと耳に響く近江涼介の声が遮った。

「頼むから、忘れてほしい。」

痛い、悲しい。……恥ずかしい?

消え入りそうな近江涼介の声。
不意に空が光ったかと思うと、花火が上がる大きな音がする。

花火の上がる音がする度一瞬黄色やピンクの光に照らされては暗くなる近江涼介の姿が辛そうで、私はただ頷くことしかできなかった。
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