姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
「勿体無いな。」
淡白で静かな呟きと共に、近江涼介の手が私の髪を掻き乱す。
「姫は面白くていい奴なのに。」
乱れて顔にかかった髪の隙間から、間近で近江涼介が微笑んでいるのが見える。
私が落ち込んだ時、近江涼介はいつも必ず励まして笑ってくれる。
ちゃんと私のことを見て、理解してくれる。
――――好き。
想いが溢れて今にも口から飛び出しそうだ。
火照った頬を気取られないように俯いて隠して、深く息を吐いて平常心を取り戻す。
自分の欲求ばかり溢れるこの気持ちを伝えたら、この手や笑顔は離れていくのだろうか?
(それはすごく、嫌だなぁ。)
でも、いつかはちゃんと決着をつけないと優しいこの人を私は身勝手に振り回してしまう気がするから。
「あのさ、近江涼介。」
平静を装って、真っ直ぐ近江涼介と向き合う。
私が姿勢を正したことに気付いて、近江涼介は私から手を離して話を受け入れるかのように見つめ返す。
「今度、話があるの。」
でもその前に、他にも話をしなくちゃいけない人達がいる。
それができたら、自分の気持ちにもちゃんとケリをつけよう。
「その時が来たら、ちゃんと聞いてくれる?」
――上手く笑えているだろうか。
近江涼介はいつもと変わらない無表情だから、今どんな気持ちでいるのか全くわからない。
ぼんやりと照らす古い蛍光灯の光と、無音と呼べるほどの静寂が緊張を煽ってほんの少しだけ居心地が悪い。
古い壁掛け時計が、コツ、と一度だけ鳴る。
しばらく間を置いて、ポツリと呟くように近江涼介からの返事が聞こえた。
「……わかった。」
多分、近江涼介は私の話が何か、わかっているのだろう。
そしてそれを承知した声音は自信がなさそうで、迷った末の言葉に聞こえたからもう結末も読めてしまった。
「ありがとう!約束だからね!」
心の奥がちょっと痛い。
だけど私は立ち止まらない。
近江涼介とずっと友達でいたいから。