姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
「じ、じゃあなんでアイツと向き合わないんだよ!」
咳払いして真が毅然とした姿勢を立て直す。
だらりと膝に置いた指先に僅かに力を込める。
その少しの間にも、俺はずっと自分の心に耳を傾け続けている。
「――姫が離れていくのが怖い。」
――これは、不安。
ほんの少し胸が張り詰めて、ずんと落ち込む様な感覚。
真は表情は分かりやすく戸惑いを浮かべ、怪訝な顔になる。その隣で、聖はずっと冷たく軽蔑した顔をして俺を見ている。
「姫の気持ちに応えたとして、姫がずっと俺を好きでいてくれる自信がない。」
俺は感情も乏しい、空っぽな人間だから。
がむしゃらに突っ走ってどんどん進化していくアイツは、いつかきっと俺を必要としなくなっていく。
“近江涼介!”
屈託なく笑う姫の顔を思い出す。
忙しく表情を変えて、心のままに生きようとする俺の憧れで大切な人。
「……だから、」
願うことはひとつだけ。
「友達のままでいいと思ってる。この先も、ずっと。
――そうやってアイツの側にいたい。」
伏せた目に僅かに力が入る。
これは本心。だけどほんの少し胸が痛んでいる。
絶句している真の顔には困惑と共感、動揺、さまざまな感情が浮かんでいる。
いつのまにか冷笑すらも消えて無表情になっていた聖が、低く冷めた声で話し出した。
「……へー?“ひーちゃんのために友達でいる”とかお綺麗なこと言っといて本当は自己都合だったってこと?ダッサ。
カッコ悪過ぎるよ、涼ちゃん。」
一切容赦しないストレートな言葉が胸を刺す。
でもこれは言われて当然のことだ。
「――まぁ友達でいるっていう選択ならそれでもいいけどさぁ。
だったらちゃんと正々堂々とひーちゃんを振ってよ。逃げないでさ。」
「…………。」
何ひとつ言い返すことがない。
今、俺は姫から逃げている。
“恋愛にトラウマを抱えた姫のため”
……元々はそのつもりだった。