姫君の憂鬱―悪の姫と3人の王子共―
Ep.237 いつもの場所で
賑わう新校舎とは打って変わって、人のいない旧校舎は物音ひとつしない静けさだ。
ずっと来ていなくて埃っぽくなった空気が、ガラ空きにした窓から抜けていく。
代わりに清涼感のあるそよ風が、いつもの教室を満たしていった。
迫り来る生徒達を全力疾走で巻いた私達は、丸テーブルを囲んで背もたれや机上にぐったりとして項垂れている。
前髪は風を切ったままで、呼吸を整えるので精一杯だ。
「最後の日になにやってんだ、俺らは……!」
「本当それよ。
せっかく気合い入れて整えてきたのに!」
喉に鉄の味が滲む。
ゼーハーと乱れた呼吸に辟易としているのに、ちょっとした爽快感もあったりして。
「……いろんなことがあったねぇ、俺達。」
天井を仰ぐ榛名聖が笑いながら穏やかに呟く。
それで空気が一段緩んだ。
「カフェオレぶっかけられたりな。」
「足蹴にされたりね!」
「勉強会だの女装だの、散々だったわ。」
「肝試ししたり、トランプしたり。
たくさん遊んだよね〜。」
ほんの少しの間が空いて、4人同時に中央を向く。
全員一緒に目が合って、フッと明るい笑い声が漏れた。
「……大体くだらねーことしかしてないな。俺ら。」
「くだらない話しかしてないしねぇ。」
「内容忘れるくらい中身のない話ばっかりだったわね。」
さっきまであんなに胸いっぱいだったのに、急にスンと冷静になる。
あの溢れる思いは一体何だったのか。
「……そんなもんだろ、友達なんて。」
何気ない近江涼介の一言に、私も広瀬真も榛名聖も目を丸くする。
ふわりと吹き込んだ風が生温く私達を包んで、再び笑顔が戻ってきた。