秘めた恋は、焔よりも深く。
「じゃあ、今日は婚約指輪を見に行くか?」
龍之介が真剣な顔で切り出す。

美咲は思わず首を横に振った。
「……いらないと思うけど」

「なぜだ?」

「だって、もう婚姻届けをもらってきたじゃない。指輪より、現実の方が先に動いてるもの」

「欲しくないか?」

なおも食い下がる龍之介に、美咲は軽く笑みを浮かべた。
「そうね……いらないわ。それより荷造りしないと」

龍之介はあきれたように肩をすくめ、ぼやいた。
「……切り替えが早いな、まったく」
けれど、その横顔には抑えきれない微笑みが浮かんでいた。

二人で美咲の部屋に戻ると、龍之介はきょろきょろと見回しながら呟いた。
「……物が少ないんだな」

美咲は微笑んでうなずく。
「うん。引っ越さなければいけないのはわかっていたから、この前かなり断捨離したの。
リサイクルショップに持って行ったら、想像以上に良い値で売れたのよ」

ふと懐かしそうに目を細める。
「その帰りに、あのコーヒー屋さんに寄ったら……偶然、龍之介さんに会ったの。覚えてる?」

「ああ、もちろん覚えてる」
龍之介は一瞬、出会いの日を思い出したように目を細め、すぐに笑みを浮かべた。
「……これも運命だな」

その言葉に、美咲の胸の奥があたたかく満たされる。
嬉しそうに微笑む彼の横顔が、たまらなく愛おしかった。

ふたりで手分けして荷造りを進めると、思いのほか早く片づいてしまった。
ダンボールを軽く叩きながら、龍之介が言う。
「……案外早く済んだな」

美咲は額の汗をぬぐい、ほっと息を吐く。
「うん。なんか、おいしいもの食べたい」

その言葉に、龍之介は思わず吹き出した。
「色気もすごいが……美咲って、食い気もすごいんだな」

美咲は唇を尖らせ、すぐに笑いへと変える。
「……褒めてるの? けなしてるの?」
その可愛らしい表情に、龍之介の胸がまた熱くなるのだった。

「……俺の食い気も、満たしてくれよ」
龍之介の低い声に、美咲は一瞬きょとんとした。
次の瞬間、彼に強く抱き寄せられ、そのまま床に押し倒される。

「ちょ、ちょっと……」
抵抗の言葉を口にしながらも、その声には笑みが混じっていた。
本気で拒む気持ちはない。

見下ろしてくる龍之介の瞳に、熱と優しさが混じっている。
幸せそうにその腕を受け入れながら、美咲は胸いっぱいに愛しさを抱きしめていた。

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