秘めた恋は、焔よりも深く。
帰宅して、部屋着に着替え、
温めたハーブティーをテーブルに置いて、ふぅとひと息つく。
カップの湯気を見つめながら、今日の出来事がゆっくりと頭の中に浮かんでくる。

(……最近、社長と話す機会が増えた気がする)

もちろん、仕事の延長だ。
報告や調整の場で、自然と交わされる言葉の中に、
ときおり混ざる何気ない雑談、天気の話、食事の話。

あの人は、もともと話しやすい雰囲気を持っている。
肩肘張らずにいられるというか、絶妙な距離感で人を受け入れるのが上手な人だ。

(……そういうところ、ちょっと凄いな)

小さく微笑んで、湯気を口元に運ぶ。

ふと、もう一人の人物の顔が浮かぶ。

(黒瀬さん……)

第一秘書の彼とは、ずっと“きっちりしたやりとり”ばかりだった。
必要最低限の会話、正確な指示、端的な報告。

それなのに、最近は

(あれ? あの人とも、前より話すようになってる……?)

たしかに、ほんの少しだけ。
仕事以外の話が混ざるようになった。
それは、彼からというより、自分の方が自然に口を開くようになったせいかもしれない。

(……いつから、だったっけ)

思い出そうとしても、はっきりしない。
でも、なんとなく。
どちらの会話も、“静かに波紋のように広がっている”気がする。

まるで、水面に小石を落としたように。
今はまだ、ごくごく小さな揺らぎ。
でも、その揺れの中心に、何かが生まれ始めている気がした。

理由は、まだ分からない。
でも.......ほんの少しだけ、今の自分が変わってきていることだけは、なんとなく、分かる。

< 19 / 153 >

この作品をシェア

pagetop