秘めた恋は、焔よりも深く。
すると、隣の森川がぽつりとつぶやいた。
「……私、思うんですけど」
「ん?」
「最近、黒瀬さん。やたら佐倉さんのところに来ません?」
「えっ……それは、仕事だからじゃないかしら?」
思わず返した美咲に、田島がすぐに乗ってくる。
「ううん、私も思ってました。なんか……仕事っていうか、
“行く理由を探してる”って感じなんですよね」
「わかる!」
落合が笑うように言う。
「黒瀬さんさあ、佐倉さんのこと見るとき、
なんか……こう、あったかい目してるのよ。
あれ、私たちには絶対しない」
「やだ、落合さん、それは間違いないです!」
森川も大きく頷く。
「え、え……?」
美咲は、箸を持つ手を止めたまま、言葉を失った。
視線?
黒瀬さんが、私を?
「いや、でも……そんな、私、別に何も……」
「何もしてないからですよ」
田島が笑顔で言う。
「佐倉さんって、ぜんっぜん気づいてないのがまた……あの人には刺さるんじゃないですかねぇ〜〜」
「ね〜、あのギャップがたぶん黒瀬さんのツボなんだよ」
森川もにやにやしながら頷いた。
美咲は、笑うしかなかった。
でも、心の奥で、何かが小さく弾けた。
(……黒瀬さんが、私を?)
そんな風に見られていたなんて、考えたこともなかった。
彼の視線を思い出そうとするけれど、
仕事中はいつも真剣で、あの整った表情に読み取れる感情なんて、なかったように思っていた。
でも.......
そう言われてみれば、ふと視線を感じたことがあったような……?
ほんのわずか、胸の奥が熱くなる。
言葉にはならない何かが、静かに揺れていた。
「……でも、黒瀬さんには、きっと素敵な方がいらっしゃるんでしょう?」
ふと、グラスを持ったまま美咲がそうつぶやくと、
すかさず森川が反応した。
「いないらしいですよ、今は恋人も」
「えっ、そうなの?」
「この間、社長に言われてました。“いい加減、余生を共にする女性を探せ”って」
「余生って……」
田島が笑いをこらえながらツッコミを入れる。
「いやいや、まだ五十代じゃなかったっけ、黒瀬さん」
落合が言うと、森川が頷いた。
「でも、社長と黒瀬さんって同級生らしいですよ。ずっと長い付き合いで、何でも言い合える間柄だって。
社長が冗談交じりに“お前にだけは素を出してる”って言ってたって聞いたことあります」
そのとき、営業部の池田が顔を上げて言った。
「社長って、奥さんのこと本当〜に大事にしてるよな」
「ね! 完全に“溺愛”ですよね」
森川も笑う。
「なんてったって、奥さん、めちゃくちゃ綺麗でしょ。
しかも富岡グループのお嬢様で、あの上品さ……まさに“完璧な奥様”って感じだもんなあ」
「本当に、絵になるカップルですよね。落ち着いてて、品があって」
田島がうっとりしたように言う。
会話はいつしか、真樹夫妻の“理想の夫婦像”へと移っていった。
けれど、美咲の胸の中には、さきほどの言葉が残っていた。
黒瀬さんは、今、恋人がいない。
“余生を共にする女性を探せ”って、社長が言っていた。
(……そんな話、されるような関係なんだ)
長い付き合い。
何でも言い合える男同士。
仕事も私生活も知っていて、必要なら遠慮なく茶化すような。
(それだけ、黒瀬さんが社長に信頼されてるってこと……)
ぼんやりと思ったその瞬間、
なぜか、“そんな人が、私を見ていたかもしれない”という事実が、改めて胸に響いた。
さっきまでは軽い冗談のように聞いていた部下たちの指摘が、
今になって、少しずつ輪郭を持ちはじめていた。
「……私、思うんですけど」
「ん?」
「最近、黒瀬さん。やたら佐倉さんのところに来ません?」
「えっ……それは、仕事だからじゃないかしら?」
思わず返した美咲に、田島がすぐに乗ってくる。
「ううん、私も思ってました。なんか……仕事っていうか、
“行く理由を探してる”って感じなんですよね」
「わかる!」
落合が笑うように言う。
「黒瀬さんさあ、佐倉さんのこと見るとき、
なんか……こう、あったかい目してるのよ。
あれ、私たちには絶対しない」
「やだ、落合さん、それは間違いないです!」
森川も大きく頷く。
「え、え……?」
美咲は、箸を持つ手を止めたまま、言葉を失った。
視線?
黒瀬さんが、私を?
「いや、でも……そんな、私、別に何も……」
「何もしてないからですよ」
田島が笑顔で言う。
「佐倉さんって、ぜんっぜん気づいてないのがまた……あの人には刺さるんじゃないですかねぇ〜〜」
「ね〜、あのギャップがたぶん黒瀬さんのツボなんだよ」
森川もにやにやしながら頷いた。
美咲は、笑うしかなかった。
でも、心の奥で、何かが小さく弾けた。
(……黒瀬さんが、私を?)
そんな風に見られていたなんて、考えたこともなかった。
彼の視線を思い出そうとするけれど、
仕事中はいつも真剣で、あの整った表情に読み取れる感情なんて、なかったように思っていた。
でも.......
そう言われてみれば、ふと視線を感じたことがあったような……?
ほんのわずか、胸の奥が熱くなる。
言葉にはならない何かが、静かに揺れていた。
「……でも、黒瀬さんには、きっと素敵な方がいらっしゃるんでしょう?」
ふと、グラスを持ったまま美咲がそうつぶやくと、
すかさず森川が反応した。
「いないらしいですよ、今は恋人も」
「えっ、そうなの?」
「この間、社長に言われてました。“いい加減、余生を共にする女性を探せ”って」
「余生って……」
田島が笑いをこらえながらツッコミを入れる。
「いやいや、まだ五十代じゃなかったっけ、黒瀬さん」
落合が言うと、森川が頷いた。
「でも、社長と黒瀬さんって同級生らしいですよ。ずっと長い付き合いで、何でも言い合える間柄だって。
社長が冗談交じりに“お前にだけは素を出してる”って言ってたって聞いたことあります」
そのとき、営業部の池田が顔を上げて言った。
「社長って、奥さんのこと本当〜に大事にしてるよな」
「ね! 完全に“溺愛”ですよね」
森川も笑う。
「なんてったって、奥さん、めちゃくちゃ綺麗でしょ。
しかも富岡グループのお嬢様で、あの上品さ……まさに“完璧な奥様”って感じだもんなあ」
「本当に、絵になるカップルですよね。落ち着いてて、品があって」
田島がうっとりしたように言う。
会話はいつしか、真樹夫妻の“理想の夫婦像”へと移っていった。
けれど、美咲の胸の中には、さきほどの言葉が残っていた。
黒瀬さんは、今、恋人がいない。
“余生を共にする女性を探せ”って、社長が言っていた。
(……そんな話、されるような関係なんだ)
長い付き合い。
何でも言い合える男同士。
仕事も私生活も知っていて、必要なら遠慮なく茶化すような。
(それだけ、黒瀬さんが社長に信頼されてるってこと……)
ぼんやりと思ったその瞬間、
なぜか、“そんな人が、私を見ていたかもしれない”という事実が、改めて胸に響いた。
さっきまでは軽い冗談のように聞いていた部下たちの指摘が、
今になって、少しずつ輪郭を持ちはじめていた。