秘めた恋は、焔よりも深く。
美咲は手にしたブランケットをかごに入れ、ふと隣に立つ龍之介に向き直った。
「……黒瀬さん」
「ん?」
「昨夜は……本当にありがとうございました」
静かに、でも真っ直ぐなまなざしで伝える美咲の声に、
龍之介が少しだけ表情を和らげる。
「……無事だったなら、それでいい」
「怖くて……声も出なかったんです。だから……あのとき、黒瀬さんの声が聞こえた瞬間、ほっとして、涙が出そうでした」
美咲が静かに笑うと、龍之介はほんの一拍、間を置いてから言った。
「……泣いてもよかったのに」
「え?」
「俺の前では、強がんなくてもいい。そう思ってる」
その言葉の温度に、胸の奥がふっと揺れる。
「……そういうの、ずるいです」
思わず口をついて出た美咲の言葉に、
龍之介は少しだけ口元を上げた。
「そうかもな」
あくまでも落ち着いた声なのに、どこか芯があって。
彼の視線は、一度も逸れなかった。
「でも……もうひとつ、言いたいことがあります」
美咲はそっとスマートフォンを取り出して、龍之介の私用番号が登録されている画面を見せた。
「昨日、登録してくれたこれ。本当に、いいんですか?」
「当たり前だろ。いつでもかけてきていい。困ったときだけじゃなくても、な」
(……“困ったときだけじゃなくても”?)
美咲の胸の奥で、小さく灯った何かが、静かに温度を帯びてゆく。
そう言ったあと、龍之介は一度視線を逸らすようにして、ふっと息をついた。
「……例えば、キャンプのこととか」
「え?」
「ギアの選び方でも、焚き火のコツでも……聞きたいことがあれば、教えるよ」
さらっと言ったつもりなのだろう。けれど、その声にはほんの少し照れたような色が混じっていた。
(……そんなの、理由にならないのに)
でも美咲は、なぜかその“こじつけ”が、少しだけ嬉しかった。
レジを済ませたあと、ふたりは店の外に出た。
夕方の風が、ほんの少しだけ秋の気配を運んでいる。
「今日はいい買い物ができました。……ありがとうございました、黒瀬さん」
「いや、俺も楽しかったよ。まさか佐倉さんと、こんなところで道具談義するとは思ってなかったけど」
そう言って微笑む龍之介に、美咲はふと、言葉を継いだ。
「……あの」
「ん?」
「よかったら、このあと……夕食、ご一緒しませんか?」
龍之介が、わずかに目を見開いた。
「え?」
「昨日のお礼も、ちゃんとできてないままで……。このまま帰るのも、なんだか落ち着かなくて」
彼女らしく控えめな提案だったが、その瞳は真っ直ぐだった。
龍之介は少しだけ息をついてから、笑った。
「……断る理由、ないな」
「え?」
「むしろ、こっちがご馳走したいくらいなんだけど。……でも、佐倉さんがそう言ってくれるなら、甘えるよ」
美咲の顔が、ほっと少しやわらぐ。
「ありがとうございます。……近くに気になってたお店があるんです。和食なんですけど、大丈夫ですか?」
「大歓迎。……じゃあ、案内してもらえる?」
頷き合いながら歩き出したふたりの間に、
さっきまでの“偶然の再会”が、静かに温度を変えはじめていた。
「じゃあ、車出すよ。近くだし、すぐだ」
そう言って、龍之介が自然な仕草で自分の車へと歩き出す。
美咲は少し戸惑いながらも、その背を追った。
「……黒瀬さん」
「ん?」
「昨夜は……本当にありがとうございました」
静かに、でも真っ直ぐなまなざしで伝える美咲の声に、
龍之介が少しだけ表情を和らげる。
「……無事だったなら、それでいい」
「怖くて……声も出なかったんです。だから……あのとき、黒瀬さんの声が聞こえた瞬間、ほっとして、涙が出そうでした」
美咲が静かに笑うと、龍之介はほんの一拍、間を置いてから言った。
「……泣いてもよかったのに」
「え?」
「俺の前では、強がんなくてもいい。そう思ってる」
その言葉の温度に、胸の奥がふっと揺れる。
「……そういうの、ずるいです」
思わず口をついて出た美咲の言葉に、
龍之介は少しだけ口元を上げた。
「そうかもな」
あくまでも落ち着いた声なのに、どこか芯があって。
彼の視線は、一度も逸れなかった。
「でも……もうひとつ、言いたいことがあります」
美咲はそっとスマートフォンを取り出して、龍之介の私用番号が登録されている画面を見せた。
「昨日、登録してくれたこれ。本当に、いいんですか?」
「当たり前だろ。いつでもかけてきていい。困ったときだけじゃなくても、な」
(……“困ったときだけじゃなくても”?)
美咲の胸の奥で、小さく灯った何かが、静かに温度を帯びてゆく。
そう言ったあと、龍之介は一度視線を逸らすようにして、ふっと息をついた。
「……例えば、キャンプのこととか」
「え?」
「ギアの選び方でも、焚き火のコツでも……聞きたいことがあれば、教えるよ」
さらっと言ったつもりなのだろう。けれど、その声にはほんの少し照れたような色が混じっていた。
(……そんなの、理由にならないのに)
でも美咲は、なぜかその“こじつけ”が、少しだけ嬉しかった。
レジを済ませたあと、ふたりは店の外に出た。
夕方の風が、ほんの少しだけ秋の気配を運んでいる。
「今日はいい買い物ができました。……ありがとうございました、黒瀬さん」
「いや、俺も楽しかったよ。まさか佐倉さんと、こんなところで道具談義するとは思ってなかったけど」
そう言って微笑む龍之介に、美咲はふと、言葉を継いだ。
「……あの」
「ん?」
「よかったら、このあと……夕食、ご一緒しませんか?」
龍之介が、わずかに目を見開いた。
「え?」
「昨日のお礼も、ちゃんとできてないままで……。このまま帰るのも、なんだか落ち着かなくて」
彼女らしく控えめな提案だったが、その瞳は真っ直ぐだった。
龍之介は少しだけ息をついてから、笑った。
「……断る理由、ないな」
「え?」
「むしろ、こっちがご馳走したいくらいなんだけど。……でも、佐倉さんがそう言ってくれるなら、甘えるよ」
美咲の顔が、ほっと少しやわらぐ。
「ありがとうございます。……近くに気になってたお店があるんです。和食なんですけど、大丈夫ですか?」
「大歓迎。……じゃあ、案内してもらえる?」
頷き合いながら歩き出したふたりの間に、
さっきまでの“偶然の再会”が、静かに温度を変えはじめていた。
「じゃあ、車出すよ。近くだし、すぐだ」
そう言って、龍之介が自然な仕草で自分の車へと歩き出す。
美咲は少し戸惑いながらも、その背を追った。