秘めた恋は、焔よりも深く。
「佐倉さん、お昼ご一緒しませんか?」

声をかけてきたのは、企画推進部の田島だった。
社内の食堂で軽く済ませようと歩いていた美咲は、笑顔で頷いた。
「うん、ちょうど行こうと思ってたところ」

並んで歩きながら、美咲はスマホの画面をちらっと見せた。
不動産アプリの間取り図が映っている。

「……引っ越し、考えてるんですか?」

「うん。実はね、今住んでるマンションの持ち主が売却することになって、退去しなきゃいけなくて。180日以内にって」

「えっ、それあまり時間がないじゃないですか……!大丈夫ですか?」

「うん、びっくりはしたけど、ちょうど新しい環境に移ろうかと思ってたところだったから。タイミングなのかなって。少し前向きに考えてるの」

「さすが佐倉さん……すごいなあ、落ち着いてて。私だったらパニックになりそうです」

「実はちょっとワクワクもしてるの。住む場所って、やっぱり心の居場所でもあるじゃない?」

そう言うと、美咲は少しだけ頬を緩めた。
田島は、ほっとしたように笑う。

「素敵ですね。私も、いつか“自分の場所”を持ちたいなあ。佐倉さんが選ぶお部屋って、きっとおしゃれで静かな場所なんだろうな」

「どうかな。日当たりは譲れないけど、あとは……直感かな」

「じゃあ、私にも今度物件見せてくださいね。目利きの勉強になりそう!」

そんな明るい昼の会話が、
秋の光が差す食堂の窓辺に、やわらかく溶けていった。

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