秘めた恋は、焔よりも深く。
その日の夕方、龍之介は社長室の資料確認を終え、デスクに戻る途中だった。
秘書課前を通りかかったとき、偶然耳にしたのは、田島と落合の控えめな声だった。
「ねえ……佐倉さん、松田専務からまた電話きてたみたいよ」
「えっ、また? 物件の話、前に一緒に見に行ってたんでしょ?」
ふたりは仕事の合間の雑談に興じているようで、声のトーンもどこか楽しげだ。
だが、龍之介の足はそこでぴたりと止まった。
「でも、佐倉さん、やっぱり断ったみたいよ」
「え、そうなんだ?」
「うん、お昼休みに電話かけ直してた。なんか丁寧にお礼してるの、ちょっと聞こえちゃって……」
(……断った?)
その言葉に、わずかに眉を動かす。
龍之介は、何も表情を変えずにそのまま廊下を進んだ。
しかし、内心には小さな波が立っていた。
(わざわざ電話で丁寧に……か)
その言葉が龍之介の心にひっかかる。
美咲が松田専務と一緒に物件を見に行ったというその事実が、
予想以上に彼の胸の中で波紋を広げた。ふたりがプライベートで過ごす時間。
松田専務の冷静な笑みを、仕事上の交渉の場で何度も見てきた。
あの男がこのまま引き下がるわけがない。
自分が考えている以上に、美咲の周囲は少しずつ動いている。
そして彼女自身も、ゆっくりと変わり始めている。
(……だとしても、俺は)
静かに息を吐き、龍之介は思考を振り払うように、スマートフォンを取り出した。
指先が、美咲の名前を呼び出しかけて.....けれど、そのまま画面を閉じる。
それでも、彼の心の中に芽吹きかけていた焦燥が、確かにそこに残った。
「松田専務がまた?」
龍之介は自分に問いかけるように呟いた。
無意識のうちに手がポケットに入ったスマートフォンに伸び、画面を眺める。
松田専務に対する無意識の警戒心が、また強くなっていくのを感じる。
彼はその心情を押し殺して、再び足を踏み出した。
落ち着いた表情で、平静を保ちながらも、心の中には不安の影が広がり始めていた。
秘書課前を通りかかったとき、偶然耳にしたのは、田島と落合の控えめな声だった。
「ねえ……佐倉さん、松田専務からまた電話きてたみたいよ」
「えっ、また? 物件の話、前に一緒に見に行ってたんでしょ?」
ふたりは仕事の合間の雑談に興じているようで、声のトーンもどこか楽しげだ。
だが、龍之介の足はそこでぴたりと止まった。
「でも、佐倉さん、やっぱり断ったみたいよ」
「え、そうなんだ?」
「うん、お昼休みに電話かけ直してた。なんか丁寧にお礼してるの、ちょっと聞こえちゃって……」
(……断った?)
その言葉に、わずかに眉を動かす。
龍之介は、何も表情を変えずにそのまま廊下を進んだ。
しかし、内心には小さな波が立っていた。
(わざわざ電話で丁寧に……か)
その言葉が龍之介の心にひっかかる。
美咲が松田専務と一緒に物件を見に行ったというその事実が、
予想以上に彼の胸の中で波紋を広げた。ふたりがプライベートで過ごす時間。
松田専務の冷静な笑みを、仕事上の交渉の場で何度も見てきた。
あの男がこのまま引き下がるわけがない。
自分が考えている以上に、美咲の周囲は少しずつ動いている。
そして彼女自身も、ゆっくりと変わり始めている。
(……だとしても、俺は)
静かに息を吐き、龍之介は思考を振り払うように、スマートフォンを取り出した。
指先が、美咲の名前を呼び出しかけて.....けれど、そのまま画面を閉じる。
それでも、彼の心の中に芽吹きかけていた焦燥が、確かにそこに残った。
「松田専務がまた?」
龍之介は自分に問いかけるように呟いた。
無意識のうちに手がポケットに入ったスマートフォンに伸び、画面を眺める。
松田専務に対する無意識の警戒心が、また強くなっていくのを感じる。
彼はその心情を押し殺して、再び足を踏み出した。
落ち着いた表情で、平静を保ちながらも、心の中には不安の影が広がり始めていた。