秘めた恋は、焔よりも深く。
「……なんだか、長く語ってしまいましたね。」
圭吾が苦笑すると、美咲も自然に微笑んだ。

「いえ、とても興味深かったです。家族のことをそんなふうにお話しくださるなんて、光栄です。」

「そう言ってもらえると助かります。普段はこういう話、部下にも友人にも滅多にしませんから。」
圭吾は軽く肩をすくめ、ナイフとフォークを手に取った。
「さあ、せっかくの料理が冷めてしまいます。佐倉さんの食べっぷり、楽しみにしてますよ。」

「えっ……食べっぷり、ですか?」

「ええ。食事を美味しそうに食べる人は、いい人だと思っているので。」

美咲は思わず吹き出し、二人の間に柔らかな笑いが広がった。
夜景も料理も、その笑顔に負けないほど温かく感じられた。

食後のコーヒーを飲み終えると、美咲はナプキンを畳み、圭吾に向き直った。
「今日は……ごちそうさまでした。とても素敵な時間をいただきました。」

「こちらこそ、付き合っていただいて感謝しています。」
圭吾はゆったりと微笑み、席を立つ美咲をエスコートする。

ホテルのエントランスに出ると、夜風が頬をなでた。
用意されていたタクシーのドアが開き、美咲は振り返る。
「本当に、ありがとうございました。」

「気をつけて。」圭吾は短くそう言い、静かに微笑む。

タクシーが滑るように走り出し、そのテールランプが小さくなっていく。
圭吾はしばらく立ち尽くしたまま、その光を見送っていた。
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