秘めた恋は、焔よりも深く。
フロアを見回っていた龍之介が、ふいに棚に並んだダッフルバッグを指さした。
「おそろいで色違いを買おう」

「……え?」思わず美咲は瞬きをした。
「ダッフルバッグなら持っていますよ。どうして二つも?」

「今回はカップルでキャンプの企画だろ」
龍之介はまるで当然のように言う。
「だったら、俺たちもカップルとして参加するってなったら、おそろいのものを持つのは効果的だ。ほら、何色がいい?」

真剣にバッグを手に取る彼の姿に、美咲の心臓が落ち着かない。
「このブランドは使い勝手がいいぞ」

「知ってます……前から欲しかったものの一つで」

口に出した途端、龍之介が目を細めて笑った。
「なら決まりだな。俺はやっぱり黒だ。美咲は?」

名前を呼ばれていることにも気づかず、美咲はベージュ色のバッグを指さした。
「じゃあ……このベージュがいいかも。あ、でも汚れやすいかしら?」

「大丈夫だろ。好きな色のほうがいいと思うぞ」
断言する声に押されるように、
美咲は
「……じゃあ、ベージュで」
と答えていた。

龍之介はそれで満足したようにうなずき、今度は別のラックの前で立ち止まった。
「フリースのジャケットも一緒に買おう。俺が色を選んでいいか?」

「え……いいですよ」

完全にペースを握られている自分に気づきながらも、断る言葉は出てこない。
龍之介はラックを眺め、指先で一着を抜き出した。
「この中で嫌いな色はあるか?」

「ありません」

「じゃあ、これだな」
彼が手に取ったのは、ピンクがかったローズウッドのジャケット。

「これなんか、どうだ?」

「着たことのない色なので……わかりません」

「似合うよ」
ためらいなく断言しながら、美咲の前にジャケットをかざす。
その声に逆らう余地もなく、彼女はただ小さくうなずいた。

龍之介は即座に買い物と配送手続きを済ませ、もう次の行動へ移ろうとしていた。
…すべてが彼のペースで進んでいく。
けれど、不思議と嫌ではなかった。

「……腹減ってきたな」
龍之介が腕時計にちらりと目をやりながら、美咲に視線を向けた。
「夕食は何が食べたい?」

唐突な問いに、美咲は小さく瞬きをした。
「黒瀬さん……黒瀬さんの行動の意図が、いまいちわからないんですが」

「夕食に付き合ってくれたら、そこで話すぞ」
龍之介は軽く笑みを浮かべる。

「……わかりました」
(やっぱり流されてしまう……)そう思いながらも、断れない自分がいた。

「じゃあ、改めて聞く。何が食べたい?」

「そうですね……。黒瀬さんは、食べたくないものはありますか? アレルギーとか?」

「特にないな。けさ水泳してから、ろくに食ってないから、腹は減っている」
豪快に言い切る声に、美咲は思わず口元を緩めた。

「それなら……焼肉がいいです」
少し遠慮がちに答えると、龍之介は目を細めて、にやりと笑った。

「よし、決まりだな」
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