秘めた恋は、焔よりも深く。
しばらく視線を逸らしていた美咲が、意を決したように顔を上げた。
頬に朱をさしたまま、けれど瞳は真っ直ぐに龍之介を見据える。

「……わかりました。明日、ご一緒します」

その言葉に、龍之介の瞳がわずかに揺れ、深い安堵と歓喜の色を帯びた。
大きな手が彼女の手を強く握り込み、低く囁く。

「ありがとう。……楽しみにしてるよ」

食事を終え、店を出た夜風の下。
並んで歩く二人の間に、ほんのりとした温もりが流れていた。

別れ際、タクシーに乗り込む美咲を見送りながら、龍之介が身をかがめる。
驚く間もなく、彼の唇が頬にそっと触れた。

「……おやすみ、美咲」

声は低く穏やかだったが、頬に残された熱が、彼の本気を何より雄弁に物語っていた。
車が走り出したあとも、美咲の胸の鼓動はしばらく落ち着かなかった。

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