日ノ本元号男子
第二章、古代国家
縄文くんと弥生くん
縄文時代で土偶が作られ、弥生時代で稲作が伝わり……何やかんや戦いがあって、今に至る。
「こうやって時代が進んでいくんだ……」
「いや、お前今、豪快に読み飛ばしていただろ」
友達三人と学校の図書室でさっきまで読んでいた『小学生でも分かる日本史!』を閉じる。
その時、よく絡んでくる恨めしい声が聞こえてきた。
「おやおや〜、SNSのフォロワー九人は一体どんな本を読んでいらっしゃるのかな〜?」
「あ、お前は!クラス委員長!」
ニヤニヤしながら近ついてきたのは黒髪にメガネという、いかにもなテンプレ真面目キャラのクラス委員長だ。
私は咄嗟に歴史マンガを胸に抱え込み、必死の言い訳を繰り出す。
「と、友達について理解を深めようと……」
縄文くん、弥生くん、古墳くん、南北ツインズに大正くんとか……。
「小学生向けの歴史マンガ?それに友達への理解?」
「友達なら目次にいるよ」
私は大真面目に本を開き、『縄文』『弥生』『大正』と書かれた目次をビシッと指差した。
「……お前、何か悩みでもあるのか?」
委員長が、哀れみと恐怖が混ざったような、完全にヤバいものを見る目で私を見てくる。
いいもん! リアルな友達が少なくたって、私には歴史の友達がいるもん!
これ以上不審者扱いされる前に、私はカバンを掴んで立ち上がった。
「この黒塗りの車に乗って歴史の勉強してくるね!」
「お待ちしておりました」
図書室を飛び出し、校門前に停まっていたお馴染みの高級車に駆け寄る。
運転席のドアを開け、相変わらず胡散臭いほど爽やかな笑顔で明治さんが出迎えてくれた。
私は車に乗り込み、窓を開けて委員長に向かって拳を突き上げる。
「今日は友達少ないけど、明日の私は今日よりも友達増やしてくるからね……!」
「アイツん家、あんな黒塗りの車なかったよな」
委員長がげっそりしながら走り去っていった車を見る。
「親が油田を掘り当てたんだとよ」
「嘘言うな」
そんな会話が私の耳に微かに届いた……気がする。
「てことで、友達を増やす方法が知りたいです!」
「何が『てことで』なのか知りませんが、言いたいことがあるのは察しましたよ」
「そうか、お主は友が欲しいのか」
「え?」
隣に座っていた知らない人と目が合う。
現実味のない美しい容姿。体格は大きくも小さくもなく、少年にも少女にも男性にも女性にも見え、圧倒的な存在感に目を奪われる。
肩より少し短く切り揃えられた、さらりとした黒髪。身に纏っている無地ながらも上等な紫色の狩衣で、男性なんだと分かった。
「我は平安。時代の化身じゃ。よろしく頼むぞ」
「あ、はい」
平安さんは、物静かと言うより……なんというか、存在の影がめちゃくちゃ薄い。これが世に言う『平安貴族の雅』ゆえのステルス性能なのだろうか。
「えっと、スルーしていてすみません。声をかけられるまで気が付きませんでした……」
「そこまで気を遣わなくても良い。慣れておる」
(平安さん、可哀想……!)
「大丈夫ですよ、仲良くなれば見えるようになりますから」
明治さんが渡してきたのは、一枚の紙。そこには『平安さんとレベル』という太文字の下に、こんなことが書かれていた。
レベル一、平安さんと大気の境目があやふやになる。
レベル二、意識しなくても平安さんを認識できる。
レベル三、飴玉をくれる。
レベル四、聞き上手として重宝される。
レベル五、親しげに話しかけてくれる。
レベル六、シークレット平安さん。仲良くなると珍しい平安さんが見られるという噂も……。
「いや、レベル一からヤバくないですか!?私、レベル六に到達できる気がしないんですけど!」
「美空さんならレベル六までいけますよ」
昨日連れてこられた不思議な部屋に向かうと、初めましての人がチラホラいた。
頭からすっぽりと布団を被って芋虫のようになっている子、ビシッとした軍服を着ている子、床に座り込んで携帯ゲーム機に熱中している子など、バリエーションが豊かすぎる。
「奈良さん、こんにちはー」
「おー、来たか若人」
大きなソファーから嬉しそうにブンブンと手を振る奈良さん。
しかし、そのすぐ横から……。
「……」
布団の子からの視線が痛い。
「僕とお茶しませんか?美味しい団子屋さんがあるのですよー!」
すると突然、布団の子の隣に座っていた、黒髪に新緑のような緑色の目をした男の子が、私の両手をぎゅっと握りしめてきた。
服装は、なぜか水兵さんが着るような可愛らしい白いセーラー服で、頭にはセーラー帽子。身長は弥生くんと同じくらいで、ちんまりとしていて可愛い。
「あ、僕は飛鳥時代ですよー。遣隋使の時代なのですよ」
よく見ると彼のセーラー帽子には、ちょこんと可愛らしいウグイスの飾りが付いている。
「江戸も自己紹介したら良いですよー!仲良くなる基本なのです」
飛鳥くんはそう言うと、隣の布団の塊をバシバシと遠慮なく叩き始めた。すると、布団がガバッと跳ね上がる。
「別に仲良くしたいとか思ってないし!期待されても困るだけだから!じゃっ」
早口で言い終え、二階に上がって行ってしまった江戸くん。
「江戸は恥ずかしがり屋さんなのですよ。気にしなくて良いですよー」
飛鳥くんは慌ててフォローしてくれた。だけど予想以上にショックを受けた私は、
(私、さっそく江戸くんに嫌われちゃった……?)
しばらく呆然としたまま動けなかった。
「次は小生でありますね。初めまして後輩ちゃん!日本一の色男、安土桃山!安土桃山でありますよ!こんなに未来の後輩ちゃんと出会えて感無量であります!」
鉄砲を背負って鮮やかな緑色の着物の裾をたくし上げ、下には動きやすそうな股引。足元には年季の入った藁草履を履いている。彼は白い歯を見せて、パッと私に手を差し出してきた。
「そして彼が―――」
安土桃山くんが、親指で柱の傍に立っている人を指す。
そこには、重厚な紺色の軍服を着て、腕を組んでいる男性がいた。
「……鎌倉だ。本日は形式上簡易的に名乗っておくが、これからも無礼には無礼で返していくつもりだ」
(この人怖い!)
明らかに不機嫌な雰囲気をかまし出している鎌倉さん。
それから、漫画が好きな江戸っ子弁の昭和くん。
自撮り棒とスマホが友達の平成くん。
お団子を頬張っている室町くん。
庭で弓道をしていた戦国さんとも仲良くなれた。
個性が……個性が強すぎるよ!
「こうやって時代が進んでいくんだ……」
「いや、お前今、豪快に読み飛ばしていただろ」
友達三人と学校の図書室でさっきまで読んでいた『小学生でも分かる日本史!』を閉じる。
その時、よく絡んでくる恨めしい声が聞こえてきた。
「おやおや〜、SNSのフォロワー九人は一体どんな本を読んでいらっしゃるのかな〜?」
「あ、お前は!クラス委員長!」
ニヤニヤしながら近ついてきたのは黒髪にメガネという、いかにもなテンプレ真面目キャラのクラス委員長だ。
私は咄嗟に歴史マンガを胸に抱え込み、必死の言い訳を繰り出す。
「と、友達について理解を深めようと……」
縄文くん、弥生くん、古墳くん、南北ツインズに大正くんとか……。
「小学生向けの歴史マンガ?それに友達への理解?」
「友達なら目次にいるよ」
私は大真面目に本を開き、『縄文』『弥生』『大正』と書かれた目次をビシッと指差した。
「……お前、何か悩みでもあるのか?」
委員長が、哀れみと恐怖が混ざったような、完全にヤバいものを見る目で私を見てくる。
いいもん! リアルな友達が少なくたって、私には歴史の友達がいるもん!
これ以上不審者扱いされる前に、私はカバンを掴んで立ち上がった。
「この黒塗りの車に乗って歴史の勉強してくるね!」
「お待ちしておりました」
図書室を飛び出し、校門前に停まっていたお馴染みの高級車に駆け寄る。
運転席のドアを開け、相変わらず胡散臭いほど爽やかな笑顔で明治さんが出迎えてくれた。
私は車に乗り込み、窓を開けて委員長に向かって拳を突き上げる。
「今日は友達少ないけど、明日の私は今日よりも友達増やしてくるからね……!」
「アイツん家、あんな黒塗りの車なかったよな」
委員長がげっそりしながら走り去っていった車を見る。
「親が油田を掘り当てたんだとよ」
「嘘言うな」
そんな会話が私の耳に微かに届いた……気がする。
「てことで、友達を増やす方法が知りたいです!」
「何が『てことで』なのか知りませんが、言いたいことがあるのは察しましたよ」
「そうか、お主は友が欲しいのか」
「え?」
隣に座っていた知らない人と目が合う。
現実味のない美しい容姿。体格は大きくも小さくもなく、少年にも少女にも男性にも女性にも見え、圧倒的な存在感に目を奪われる。
肩より少し短く切り揃えられた、さらりとした黒髪。身に纏っている無地ながらも上等な紫色の狩衣で、男性なんだと分かった。
「我は平安。時代の化身じゃ。よろしく頼むぞ」
「あ、はい」
平安さんは、物静かと言うより……なんというか、存在の影がめちゃくちゃ薄い。これが世に言う『平安貴族の雅』ゆえのステルス性能なのだろうか。
「えっと、スルーしていてすみません。声をかけられるまで気が付きませんでした……」
「そこまで気を遣わなくても良い。慣れておる」
(平安さん、可哀想……!)
「大丈夫ですよ、仲良くなれば見えるようになりますから」
明治さんが渡してきたのは、一枚の紙。そこには『平安さんとレベル』という太文字の下に、こんなことが書かれていた。
レベル一、平安さんと大気の境目があやふやになる。
レベル二、意識しなくても平安さんを認識できる。
レベル三、飴玉をくれる。
レベル四、聞き上手として重宝される。
レベル五、親しげに話しかけてくれる。
レベル六、シークレット平安さん。仲良くなると珍しい平安さんが見られるという噂も……。
「いや、レベル一からヤバくないですか!?私、レベル六に到達できる気がしないんですけど!」
「美空さんならレベル六までいけますよ」
昨日連れてこられた不思議な部屋に向かうと、初めましての人がチラホラいた。
頭からすっぽりと布団を被って芋虫のようになっている子、ビシッとした軍服を着ている子、床に座り込んで携帯ゲーム機に熱中している子など、バリエーションが豊かすぎる。
「奈良さん、こんにちはー」
「おー、来たか若人」
大きなソファーから嬉しそうにブンブンと手を振る奈良さん。
しかし、そのすぐ横から……。
「……」
布団の子からの視線が痛い。
「僕とお茶しませんか?美味しい団子屋さんがあるのですよー!」
すると突然、布団の子の隣に座っていた、黒髪に新緑のような緑色の目をした男の子が、私の両手をぎゅっと握りしめてきた。
服装は、なぜか水兵さんが着るような可愛らしい白いセーラー服で、頭にはセーラー帽子。身長は弥生くんと同じくらいで、ちんまりとしていて可愛い。
「あ、僕は飛鳥時代ですよー。遣隋使の時代なのですよ」
よく見ると彼のセーラー帽子には、ちょこんと可愛らしいウグイスの飾りが付いている。
「江戸も自己紹介したら良いですよー!仲良くなる基本なのです」
飛鳥くんはそう言うと、隣の布団の塊をバシバシと遠慮なく叩き始めた。すると、布団がガバッと跳ね上がる。
「別に仲良くしたいとか思ってないし!期待されても困るだけだから!じゃっ」
早口で言い終え、二階に上がって行ってしまった江戸くん。
「江戸は恥ずかしがり屋さんなのですよ。気にしなくて良いですよー」
飛鳥くんは慌ててフォローしてくれた。だけど予想以上にショックを受けた私は、
(私、さっそく江戸くんに嫌われちゃった……?)
しばらく呆然としたまま動けなかった。
「次は小生でありますね。初めまして後輩ちゃん!日本一の色男、安土桃山!安土桃山でありますよ!こんなに未来の後輩ちゃんと出会えて感無量であります!」
鉄砲を背負って鮮やかな緑色の着物の裾をたくし上げ、下には動きやすそうな股引。足元には年季の入った藁草履を履いている。彼は白い歯を見せて、パッと私に手を差し出してきた。
「そして彼が―――」
安土桃山くんが、親指で柱の傍に立っている人を指す。
そこには、重厚な紺色の軍服を着て、腕を組んでいる男性がいた。
「……鎌倉だ。本日は形式上簡易的に名乗っておくが、これからも無礼には無礼で返していくつもりだ」
(この人怖い!)
明らかに不機嫌な雰囲気をかまし出している鎌倉さん。
それから、漫画が好きな江戸っ子弁の昭和くん。
自撮り棒とスマホが友達の平成くん。
お団子を頬張っている室町くん。
庭で弓道をしていた戦国さんとも仲良くなれた。
個性が……個性が強すぎるよ!