子を奪われた私が、再婚先の家族に愛されて、本当の母になるまで
第一話:追われた者、行き先もなく
朝靄の中、馬車がゆっくりと止まった。
ぎい、と軋んだ音を立てて扉が開かれる。侍女は、私の顔を一瞥することもなく、ただ無言で手を差し出してきた。
「ここで結構です。あとはご自由に」
それだけ言い残して、馬車は何事もなかったかのように去っていった。
街道の先、雨に煙る林の中へと音もなく消えていく。
私は、ひとりきりになった。
辺境の街の外れ。
地図にもほとんど載らない、小さな集落。
侯爵家から与えられたわずかな金と、ひとつの鞄だけが、今の私の全財産だった。