うちの鬼畜社長がお見合い相手で甘くて困る
海龍Side


「……海龍くん……」

凪が小さな声でそう呼んだとき、思わず笑ってしまった。

(“海龍くん”なんて、いつぶりだ?)

たぶん、小学生のときに母親の知り合いに呼ばれたのが最後じゃないか。
それくらい、誰にも呼ばれてこなかった名前の響き。

自分でも驚くほど――悪くない。

むしろ、妙にくすぐったいような、照れくさいような。
社長として見られ続けていたせいか、名前を呼ばれるだけで一気に距離が縮まる気がする。

「じゃあ、こちらもプライベートでは敬語やめる。いいよね?」

凪は、ちょっと戸惑った顔をしながらも、うなずいた。

「……は、はい」

「敬語」

「え、……あ、うん」

言い直したその“うん”が、なんだか妙に可愛くて、また笑いそうになった。
この子、本当に素直で真面目なんだな。

会社じゃ地味で、俺の前では緊張で固まってたけど――
こんなふうに、表情がコロコロ変わる。

もっといろんな顔、見たくなるじゃないか。

(……なんだこれ)

いつもの俺らしくない。

でも、悪くない。

いや、むしろ――
こいつを、もっと“俺の世界”に引き込みたくなる。


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