うちの鬼畜社長がお見合い相手で甘くて困る
海龍Side

火がゆらゆらと揺れている。
音もなく、静かに。

パチパチと小さく薪がはぜる音だけが、夜の空気に混じっている。

俺の隣には、凪。
さっきまで楽しそうに動いてたのに、今は静かに炎を見つめている。

あいつがこの時間を大事にしてるってこと、今日一日一緒にいてわかった。

いつも会社では、緊張してるのか、妙に距離をとって、遠慮がちで。
でも、今の凪は肩の力が抜けてて、笑って、よくしゃべって…
ちょっとだけ、俺に気を許してくれてる気がした。

そして今――
あいつの横顔を、焚き火の光が照らしていた。

なんだよそれ…
ずるいだろ。


 

今日一日、ずっと考えてた。

こんなに心が穏やかになる時間なんて、久しくなかった。

俺は仕事で結果を出すことがすべてだと思ってたし、
人間関係なんて、あってもなくても関係ないと思ってた。

なのに。

凪といると、こんなに違う。
こんなに、心が揺れる。

さっきあいつがくれたコーヒー、なんなんだよ、あれ。
今まで飲んできたどんな高級な豆よりも、うまかった。

美味かった…んじゃない。
心に沁みたんだ。

それが、わけわかんなくて、戸惑ってる。

 

「…楽しかった。また行きたい」

ぼそっと漏れた言葉は、本音だった。

あいつの笑顔が見たくて、
あいつの淹れるコーヒーが飲みたくて、
あいつが好きな景色を、もっと一緒に見たくて。

こんな感情、久しぶりすぎて、どうしていいかわからない。

でも――

もう、逃げられないな。
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