うちの鬼畜社長がお見合い相手で甘くて困る
名残惜しそうに唇が離れたあと、海龍くんは少しだけ私を見つめて――ふっと息を吐いた。

そして、次の瞬間。

まるでスイッチが入ったように、その表情がすっと変わった。

 

「――では、業務に戻ります。平泉さんも席に」

 

え…?

さっきまでの、あの優しい声音とはまるで違う。
一気に、あの“社長”の顔だ。

背筋が伸びる。
慌てて「はい」と返事をして、立ち上がる。

彼はもう、私の方を見ていなかった。
視線はすでにデスクのパソコンへ向けられ、指先がキーボードを叩いていた。

数分前まで、私を見つめてくれた目は、もう仕事モードのそれだった。

 

「……失礼します」

 

そう言って、社長室を出た瞬間――ふうっとため息がもれた。
心臓はまだバクバクしているのに、なんだか現実に引き戻された気がする。


こんなふうに、甘くて熱くて優しいのに、急に突き放すように「社長」に戻るなんて――

私、もっと、惹かれてしまう。

 

扉を閉めて、廊下を歩きながら、さっきの唇の感触をそっと指でなぞってしまった。

 
止まらなくなる”って、言ってた。

私はもう、止まれないかもしれない。
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