うちの鬼畜社長がお見合い相手で甘くて困る
しばらくして、二人は静かに入籍した。
式は挙げず、届け出だけのシンプルな結婚。
けれど、二人にとってはそれが一番自然なかたちだった。

凪は仕事を続けることにした。
旧姓のままで、今まで通りの生活を守ること。
それが、彼女にとってのひとつのけじめでもあった。

社員にも上司にも報告はしていたが──
そこは「やっぱりか〜!」というムードで、案の定、社内にはあっという間に広がっていた。

そんなある日。

社内の別部署との打ち合わせで、凪は偶然、廊下で海龍とすれ違った。
スーツを着こなし、凛とした表情で歩いてくるその姿は、相変わらず“社長”だった。

けれど、凪にはもう見慣れた、大好きな“海龍くん”の顔でもある。

ふと、視線が合って、思わず口が開いてしまった。

「──あっ、海龍くん!」

その瞬間。

廊下にいた社員数名が、ぴしっと足を止めた。
そして、凍りついたように凪と海龍を見た。

海龍は一瞬きょとんとした後、ふっと目元をゆるめて微笑んだ。

「……仕事中だぞ、凪」

それだけを言って、そのまま颯爽と歩き去っていった。

廊下に残された社員たちはというと──

「え、今、“海龍くん”って呼んだ?!」
「なにあの笑顔!!社長ってあんな顔できるの?!」
「え、もしかして、溺愛されてるってやつ……!?!?」

どよめく社員たちの中で、凪は顔を真っ赤にして立ち尽くしていた。

(やば……完全に呼び方まちがえた……)

だけど、そのあと鳴ったスマホには、こんなメッセージが届いていた。

> 『もっと呼んでいいよ。海龍くん、って。』



──凪の顔は、さらに真っ赤になった。


そんな甘い日常が、海龍と凪の日常。


Fin
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