うちの鬼畜社長がお見合い相手で甘くて困る
「行きません!」
自分でも驚くほど、はっきりとした声だった。
けれど、海龍――社長は微笑を崩さなかった。
「……そうですか。残念です」
それだけ言って、また静かにコーヒーを一口。
(なんなんだ、この人……!)
私は頭を下げると、資料を置いて、社長室を後にした。
ドアが静かに閉まる音に、心臓がどくんと跳ねる。
(断った。はっきり言った。……のに)
どうしてだろう。
全然、終わった気がしない。
それからの数日。
社長は何も言ってこなかった。
社長室に呼ばれることもなければ、突然話しかけられることもない。
(よかった……きっと、諦めてくれたんだ)
……そう思いたかった。
でも。
視線。
近づいてくる足音。
すれ違う瞬間に、体が触れるか触れないかの距離感。
何ひとつ“明確”ではない。
けれど、“気づかせる”だけの絶妙な仕掛けが、日々の中に確かに存在していた。
(社長が、怖い)
私は、何度もそう思った。
お見合いは断るって言った。
あれは一時の間違い。
立場が違うし、私はただの社員。
なのに――
(なぜ、“あの日”が来てしまう)
土曜日。
あの、約束してしまった日。
あれは、たしか…。
会議室で社長に言われた。
――「じゃあ、来週の土曜。少しだけ時間をください」
そのときは、曖昧に笑って、濁したつもりだった。
でも、彼は“了承された”と、受け取っていた。
そして、何の確認もないままその日を迎えてしまった。
(……行くつもりなんてなかったのに)
スマホを見れば、社長からのメッセージが一件。
《16時。駅の北口で待っています》
それだけ。
なのに、そこに“断る余地”がまるでないのが、怖い。
(どうして……断ったはずなのに)
私は玄関に立ち尽くしながら、自分の服を見下ろす。
結局、出かける準備をしてしまった自分が――
なによりも、いちばん怖かった。
自分でも驚くほど、はっきりとした声だった。
けれど、海龍――社長は微笑を崩さなかった。
「……そうですか。残念です」
それだけ言って、また静かにコーヒーを一口。
(なんなんだ、この人……!)
私は頭を下げると、資料を置いて、社長室を後にした。
ドアが静かに閉まる音に、心臓がどくんと跳ねる。
(断った。はっきり言った。……のに)
どうしてだろう。
全然、終わった気がしない。
それからの数日。
社長は何も言ってこなかった。
社長室に呼ばれることもなければ、突然話しかけられることもない。
(よかった……きっと、諦めてくれたんだ)
……そう思いたかった。
でも。
視線。
近づいてくる足音。
すれ違う瞬間に、体が触れるか触れないかの距離感。
何ひとつ“明確”ではない。
けれど、“気づかせる”だけの絶妙な仕掛けが、日々の中に確かに存在していた。
(社長が、怖い)
私は、何度もそう思った。
お見合いは断るって言った。
あれは一時の間違い。
立場が違うし、私はただの社員。
なのに――
(なぜ、“あの日”が来てしまう)
土曜日。
あの、約束してしまった日。
あれは、たしか…。
会議室で社長に言われた。
――「じゃあ、来週の土曜。少しだけ時間をください」
そのときは、曖昧に笑って、濁したつもりだった。
でも、彼は“了承された”と、受け取っていた。
そして、何の確認もないままその日を迎えてしまった。
(……行くつもりなんてなかったのに)
スマホを見れば、社長からのメッセージが一件。
《16時。駅の北口で待っています》
それだけ。
なのに、そこに“断る余地”がまるでないのが、怖い。
(どうして……断ったはずなのに)
私は玄関に立ち尽くしながら、自分の服を見下ろす。
結局、出かける準備をしてしまった自分が――
なによりも、いちばん怖かった。