「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています
会場の喧騒は、いつの間にか耳に入らなくなっていた。

二人だけの世界に包まれて、私はそっと目を閉じた。

会場を出ようとしたその時だった。

一人の華やかな令嬢が、音もなくカイルの隣に寄ってきた。

「聞きましたわ、セレナとの婚約のこと。」

艶やかな声でそう囁くと、彼女はカイルの腕に絡みつくように触れた。

「ユリウス様への復讐なんですってね。……ふふ、皮肉な話。妃の座がそんな風に使われるなんて。」

カイルは何も言わず、ただ無表情のまま彼女を見下ろした。

「婚約破棄されたら……その時は、どうぞ私の元へ。」

軽やかにウィンクをして、令嬢は去っていく。

私は息が止まりそうになった。

なぜ、カイルは否定しなかったの?

あの人の唇から、「違う」とひと言でもあれば──私は安心できたのに。

私はただの道具?
ユリウスへの当てつけのために選ばれた、都合のいい婚約者?

胸がじわりと痛む。

復讐が終わった今、私はもう……必要ないのかもしれない。
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