「妃に相応しくない」と言われた私が、第2皇子に溺愛されています
「……はい」

言葉は素直に出た。でも、心は素直になれなかった。

私は今、“誰のために”妃になろうとしているのだろう。

カイル殿下のため?

それとも、“選ばれた”という誇りのため?

(――いいえ、私は……)

手帳を閉じ、そっと視線を落とす。

私がこの席に座るのは、カイル殿下に認められたから。

あの時、手を取ってくれたから。

けれど、今の私は……その温もりを、見失っていた。

そして今日は珍しく、講義を終えた私が馬車に向かおうとしたその時――

「セレナ。」

聞き慣れた声がして振り向いた。

そこには、カイル殿下が立っていた。

宮廷服の襟元が少し乱れていて、額には薄い汗。いつもより少し疲れているように見える。

「殿下……。」

「久しぶりだね。」

ゆっくりと歩み寄ってきたカイルは、私の肩を引き寄せ、そっと抱きしめた。

この感覚。懐かしくて、安心できて、胸がいっぱいになる。
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