私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
「また、実家……連れてっていい?」

野田の低い声が、夜の静けさの中で優しく響いた。

私はそっと彼を見上げた。

その表情は、いつもより少し真剣で、どこか照れくさそうで。

「うん」
私は、迷いなく答えた。

「また、おばあちゃんにも、お母さんにも会いたい」

そう言った瞬間、野田の目が柔らかくほころぶ。

「……そっか。よかった」
彼はそう言って、私の髪をやさしく撫でた。

静かな夜のなか、私の胸の奥に、小さな灯がともったような気がした。

次は、もっと自然に隣にいられる気がする。
彼の家族のなかに、少しずつ私の居場所ができていく――そんな予感がした。
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