私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
しばらくして、私たちは結婚した。
田舎で迎えた、手作りの結婚式。
親しい人たちだけを招いて、庭に白い布をかけた簡単な祭壇をしつらえ、おばあちゃんが縫ってくれた帯で和装の仕上げをしてくれた。
お母さんは泣きながら、「風花ちゃん、うちの子になってくれてありがとう」って。

「俺のとなり、ずっといて」

誓いの言葉も、指輪もなかったけれど、野田のその一言が、世界中のどんな愛の言葉よりも胸に響いた。

結婚してすぐ、私たちはこの町に根を張ることにした。
野田は地元の役場で働きはじめ、私は町の企業の総務として再スタートを切った。
職場の人たちも温かくて、すぐに地域になじんでいった。

朝、縁側で一緒にご飯を食べて、
昼間はそれぞれの職場でしっかり働いて、
夜は家に帰って、今日あったことをぽつぽつ話しながら、一緒に台所に立つ。

「……なあ、風花」

ある晩、野田がぽつりと言った。

「あの日、洗濯機の音さえなければ、たぶんプロポーズしてたわ」

私は思わず笑ってしまって、でもすぐに、胸がきゅっとあたたかくなった。

「それ、今してもいいよ?」

野田は真顔になって、私の両手をぎゅっと握る。

「じゃあ、あらためて。……俺と、ずっと一緒にいてくれますか?」

「はい、よろこんで」

もうとっくに結婚してるのに。
でも、こうして何度でも、ちゃんと想いを言葉にしてくれる人と結ばれたことが、何よりもうれしい。

今、私たちは田舎の一軒家で暮らしている。
おばあちゃんがくれた大きなダイニングテーブル、近所のおじさんが分けてくれた薪ストーブ、ふたりで選んだカーテンとマグカップ。

どれもが、ふたりの「これから」をかたちづくっている。

「……ひ孫、楽しみにしてるって言ってたよね、おばあちゃん」

ふと、私がそう言うと、野田が横でふっと笑う。

「うん。……じゃあ、そろそろ家族会議しようか」

そんな何気ない夜が、たまらなく幸せだった。

もう、あの頃みたいに不安に揺れることはない。
私は、彼のとなりにいる。
今も、明日も、きっと、ずっと。

Fin
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