もう一度、君と恋をするために

第一章 気まずい朝と、やわらかい距離

社内恋愛で一番嫌なのは、別れた後でも相手の顔を見なければならないという事だ。

私はいつもの朝。オフィスに入って自分のデスクに座った。

「おはよう。」

隣のデスクの悠一が挨拶をしてきた。

「おはよう。」

別れて3か月。私達は何事もなかったかのように、挨拶を交わす。

お互い30歳。4年も付き合えば結婚を意識するはずだった。

でも彼は言った。「今はそのタイミングじゃない」と。

私は待てなかったし、彼は引き止めなかった。

そんな風にして、私達は静かに終わった──はずだった。

けれど今も、彼の声に反応してしまう。

画面越しに映る横顔、会議で交わる視線、そして机に置かれた同じカップブランドのマグ。

終わった恋にしては、近すぎる。

でももう戻らないと決めたのは、私の方だった。

……はずなのに。

「おはようございます、桐谷さん。」

向かい側の席に美波ちゃんがやってきた。まだ入社2年目の営業アシスタント。明るくて人懐こい、社内の癒し系だ。
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