東雲家の御曹司は、わさびちゃんに首ったけ
 
 
「悪い……誕生日を祝いたいと言っておきながら……」
 
「仕方ありません。紀糸はわさびの身体が気に入って、雄の本能で腰を振りました。あんなに何度も生殖行為を続けられる紀糸は強い雄です」
 
「……」
 
 気に入ったといえば、語弊があるが……初めからわさびとの身体の相性はいいと思っていた。
 
 2年ぶりに抱く彼女の身体は、俺に身を預けてくれていたからか、より抱き心地がよく、止まらなかったのだ。
 
 わさびもわさびで、俺の真似をして学習したのか、はたまた俺の頭を覗いたのか、積極的かつ従順で……もう、とにかく本当に俺をどうしたいのかと言いたくなるほどに可愛かった。
 
「俺が満足しただけでは駄目だ。わさびは……よかったか? 何度もイっていたようだが」
 
「はい、わさびは生殖行為が好きになりました。毎日でもしたいです。でも、あの行為は紀糸としかしたくありません」
 
 風呂に浸かり、俺の脚の間で手で水鉄砲を作りながらそんな可愛い事を口にするわさび。
 
「そうか、よかった」
 
「あの行為は、夜にベッドの上ででしかしたらいけませんか?」
 
 自分の顔にお湯が飛んできて、瞬きを早くするわさび。
 
 ───ああ、なんて可愛い生き物なんだ。
 
 この世にこんな可愛い生物がいたというのに見つけるまで30年もかかった俺は、視野が狭かったのだろうか。
 
「……人前でさえなければ、したくなったら俺に言え、俺が判断して、問題なければいつでも抱いてやる」
 
「そうですか。それはいい事を聞きました」
 
 するとわさびは身体の向きを変え、俺と向かいあった。
 おもむろに首に腕を回し、ペタン、と俺の腰元に座ると、あざといと言える上目遣いで俺に強請る。
 
「紀糸、わさびは……今したいです。ここがムズムズします」
 
「……」
 
 ───若さとは……
 
 
 
 ────── 
 
 
 
 “オーナー♡HappyBirthday! ”
 “東雲様♡オーナー Happy Engagement♡”
 
 翌日、大量のクラッカーの音を響かせ迎えられたわさびのサプライズ誕生日会に、何故か俺達の婚約を祝う文言が追加されていた。
 
 こんなにいたのか、と思うほどの人数の従業員達や関係者達が、貸し切りにされたノーザンのカフェに駆けつけていた。そこには、シノノメ・ホースの元担当者である滝本氏もいた。
 
 わさびは昨夜、誕生日会は去年もしてもらった、と言っていたが、今年は少し驚いているように見える。
 
「オーナー、オーナーが来てくれて、樋浦さんが来てくれて、ノーザンはこんなにも活気が出て大きくなりました。みんな、本当にオーナー達に感謝しています。これからも、よろしくお願いしますね」
 
 施設長がわさびに大きな花束を渡し、ひと言述べた。
 
「プラネタリウムが出来たら、きっと修学旅行生とかも呼べますよね! 絶対絶対稼げますよ!」
 
 あの建設中の建物は、プラネタリウムだったのか。なるほど、考えたな。そのままグランピング施設も作れば昼も夜も夏も冬も楽しめる施設になる。
 
 と、俺がそんなことを考えていると……
 
「すでに計画は進んでいます。まだ秘密ですよ」
 
 と、わさびが言った。俺の妻となる人物は、侮れない。
 
「ノーザンは今、わさびの信用できる人しかいません。これからも、信用できる人しか来ません。そして、ノーザンはこれからもっともっと大きくなります。皆さん、わさびを信じて、最後までついて来てください。皆でお金をたくさん稼いで、殺処分ゼロを目指しましょう」
 
 人前で話すのは苦手かと思っていたが、わさびもなかなか言うようだ。
 そういえば、卒業生代表の挨拶も堂々としていたな、と思い出す。
 
「紀糸もひと言どうぞ」
 
「……俺か? いいのか?」
 
 突然挨拶を求められた。わさびもなかなかの無茶ぶりをする。
 だがこれは、わさびの未来の旦那として、オーナーに邪な思いを抱く輩を排除するためにもしっかりアピールするチャンスだ。
 
「東雲です。ご存知のとおり、昨日シノノメ・ホースと共にこちらに仲間入りさせていただきました」
 
「ぶっ」
 
 わさびが笑った。珍しい。
 
「こちらのオーナーとは、2年前に婚約関係にありましたが、政略的な理由により泣く泣く解消となっておりました。ですが、この度晴れて再婚約となり、近いうちに入籍する予定です。あと……せっかくですので、こんな話もしようと思います。こちらの先代のオーナーである神楽 喜八氏は、病院のベッドで私におっしゃいました。ご自身の孫である今のオーナーを“自由にしてやってくれ”と───」
 
 ここの従業員の多くは、お爺のことを知っているはずだ。それならば、故人の話でも、と思ったのだが……
 思いのほか、会場の人々の表情は真剣なものに変わっていた。タブーだったのだろうか……
 
「私はここノーザンを訪れて思いました。自分の婚約者は今、“自由を手に入れている”。彼女は、決して祖父から相続したからという理由などではなく、また、喜八氏への恩返しなどではなく、ただ単純にこの地と人とノーザンを気に入り、自分の意思でここを良くして行こうと思っています」
 
「……」
 
 わさびは無言でジッと俺を見ていた。
 
「かつての神楽は今、私が買収の音頭をとり、東雲の一部としてこの国の経済の一部を担っております。ですがここノーザンはすでに、神楽 喜八氏の信念を受け継ぐ現オーナーの手によって生まれ変わり、今後も発展を遂げる未来が私には見えております。ですので、東雲は一切手出し口出しは致しません。もちろん、困ったことがあれば、協力は惜しみませんが、そんなことにはならないでしょう」
 
 ぐすっという鼻をすする音があちらこちらから聞こえ始めた。
 
「最後に……私の最愛であるオーナーを、暖かく迎えて下さった旧ノーザンの皆さん、そして、新たな仲間として彼女の手を取ってくださった皆様、彼女は少し変わっていますが、素直でとても可愛い女性です。これからも、馬房で眠ってしまう事があれば、またかと呆れずに、探してあげてください」
 
 クスクスっと笑う声が聞こえた。いつもわざびを探し回ってくれている人だろうか。
 
「今後は私も頻繁にこちらに顔を出すことになるかと思いますので、これを機に顔を覚えておいていただければと思います。シノノメ・ホース共々、どうぞ、よろしくお願いいたします。長くなりましたが、以上です」
 
 話を締めると、会場はシーンとした後、大きな拍手に包まれた。
  
「私、オーナーとイケメンの旦那さんの事、めっちゃ推します!」
 
 杏奈ちゃんだろうか。顔の前で祈るように両手を組んでキラキラした目で俺達を見ている。
 
「ありがとう、期待にこたえられるような夫婦になるよ」
 
「紀糸、よそいきの顔してます」
 
「悪いか?」
 
「悪いです、紀糸はもうノーザンの仲間です。よそいきは禁止です」
 
「……また、そうやって不意打ちを……」
 
 俺は初めて見る、自分に向けられた彼女の笑顔に我慢できず、思わず腰を抱き寄せキスをした。
 
「ギャー!そんな大サービスをっっありがとうございます!」
 
 ……なぜか杏奈ちゃんが、喜んでいた。
 
 





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