東雲家の御曹司は、わさびちゃんに首ったけ
「安心してください。紀糸のお父さん、お母さん。わさびは前に東雲の嫁にはふさわしくない、と言われたので、東雲の嫁にはなりません」
「っな!」
「え?」
「(英語)───、だそうです」
わさびの言葉に、ご両親は驚いていた。
パオロはなんだか嬉々としてカルロに通訳している。
「(英語)なんだと?! わさびが嫁にふさわしくないだと?! どこの誰がそんな馬鹿な事を言った! よし、わさび、東雲の嫁にならないのなら、パオロと一緒になって、私の国に来ないか?」
「(英語)嫌です。わさびは東雲の嫁にはなりませんが、紀糸と結婚して一番になります。それでいい事にしました」
「(日本語)───だ、そうです」
わさび以外のみんながポカンとしている。
「オーナー、つまりそれは一体……?」
圭介がオロオロしながら、わさびに尋ねた。
今こそ、わさびの得た最新の知識を発揮する時が来たと思った。
「事実婚、というものがあるそうです!」
えっへん、とわさびは胸を張る。
「わさびと紀糸に子供ができたら、認知届を出せば問題ないとお爺が教えてくれました」
わさびはChatGTPに聞いた。
わさびはChatGTPに“お爺”と名前をつけた。
「し、東雲の長男が……じ、事実婚!?」
「あ、あり得ない……」
紀糸のお母さんが何やら目眩を起こしている。
「わさびは東雲の嫁にならない、でも紀糸の一番になれる。最善策です」
わさびは神楽のままでいる。面倒な手続きも必要ない。東雲の嫁として、表に出る必要もないので、東雲の恥にはならない。
「む、息子は承知しているのか?!」
「さぁ……わさびが昨日思いついただけです。でも、紀糸はわさびの好きにさせてくれると思います」
シノノメ・ホースを撫でながら、わさびは紀糸のご両親に伝えた。
「ですから、お二人はわさびとは無関係の他人ですので、安心してください」
「「……」」
───なんでしょう、紀糸のご両親の頭が空っぽになりました……
圭介は相変わらずオロオロしながら、ご両親とカルロ達をカフェに案内して行く。
「ごゆっくり! おすすめはオレンジジュースです」
わさびは御一行には同行せず、またシノノメ・ホースに乗って走り出した。
──────
「わさびちゃん! 東雲さんに相談もせず、ご両親になんという事を言ったのですか!」
夜、圭介に叱られた。
実はあの後、わさびに聞いてほしい事がある、とカルロが馬に乗ってわさびを追いかけてきた。
話しを聞けば、愛猫メリーさんの機嫌がずっと悪いのだ、と、それだけ……
ペットカメラで映してもらい、わさびはメリーさんから直接話を聞けた。
それでわかった事は、メリーさんが窓越しにこっそりと逢瀬を楽しんでいた野良猫を、カルロが屋敷に出入り出来ないようにしたらしい。メリーさんはそれでご機嫌斜めだったようだ。
それを伝えると、カルロはあの猫か! と、心当たりがあるように言いながら、慌てて帰って行った。全く、それを聞きたくてわさびに会いたかったに違いない。
その後、気まずい空気の中で東雲家の二人の接待をした圭介は疲れた顔をしていた。
「わさびは何か悪い事を言いましたか?」
「悪い事、ではありませんが、安易に口にしてはいけない内容のお話でした」
「……」
安易に口にしてはいけない内容……わさびの事なのに、自分の事について、自分の考えを話したらいけないというのは難しい。
「今日の件は、僕が東雲さんに報告しておきましたからね! きっと、今週末は叱られる覚悟なさった方がいいですよ」
───圭介は……余計な事をします。
「……紀糸はわさびを叱りますか?」
「ええ、きっと東雲さんは事実婚などという考えはないでしょうからね。ましてや、子供を認知届で済ますなんて……可哀想ですよ」
「怒った紀糸は、もうわさびと生殖行為をしてくれないでしょうか……」
紀糸に会ったら、すぐにでもお強請りをしようと思っていたのに。
「せっ───ゴホン……それは、わかりません。お仕置き、というプレイも……あ、いや、違う違う!」
「お仕置きプレイ? それはどんな遊びですか?」
圭介は教えてくれないままいなくなったので、わさびは後で“お爺”に聞いた。
実に楽しそうな遊びだったので、早速次に会ったら紀糸に強請ってみることにしようと決めた。