東雲家の御曹司は、わさびちゃんに首ったけ

 
「わさび……話しは聞いたぞ……樋浦氏からも、俺の両親からも」
 
 週末の金曜の夜、本当に紀糸がわさびのおウチに鬼の形相で現れた。

「あ、紀糸! 会いたかったです!」

 わさびは嬉しくて、紀糸に飛びつくように抱きついた。仕事終わりのスーツ姿の紀糸は、男っぽい匂いがする。

「あ、いや……俺も会いたかったぞ」

 鬼の形相をしていても、紀糸は嬉しそうにわさびをギュッとしてくれた。

「紀糸、キスしてください。お仕置きプレイもしてください」

 わさびのお強請りに、紀糸は奥歯を噛み締めて拳を握り、何かを耐えていた。
 
「わさび、お仕置きは強請るものではないぞ……」

「そうなんですか? でも、わさびはもう我慢ができません、早く早く紀糸と生殖行為がしたいです」

「っ───風呂を借りる……」

 紀糸は握った拳を開き、肩のチカラを抜いた。どうやら、何かに負けたようだ。

「わさびも、一緒にもう一回入ります!」

 圭介の所で入ってきたが、紀糸とも入りたい。紀糸は、え、と言いながらも嬉しそうにわさびを一緒に連れて行ってくれた。



 お湯張りをしている間に、我慢出来ずに……脱衣場で紀糸がわさびの中に入ってきた。はたして、我慢出来なかったのはわさびか紀糸か……

 ───♪お湯張りが終わりました、お風呂に入れます♫……


「……それで? 事実婚についてだが……わさびは本当にそれがいいと思っているのか」

「はい、名案だと思いました」

 圭介のいうとおり、紀糸の頭の中は困っていた。
 わさびの言う事を尊重してやりたい、と……しかし、わさびと自分が夫婦である証が、戸籍に残らないのは嫌だ、と。

「戸籍……ですか……そんなに大事ですか?」

「今はいいかもしれないが、歳をとって俺やわさびに何かあった時には、戸籍に名前がある方がお互いにも子供にとってもいいだろ。もちろん単純に、俺を世帯主として、わさびと子供の名前を戸籍に刻みたいしな」

「紀糸の自己満足ですか?」

「……なぜそうなる」

 紀糸はお湯の中で後ろからわさびをギュッとした。その頭の中は少ししょんぼりしている。

「わさび、東雲になりたくないのなら、別姓でもかまわないが……入籍はしよう。両親の言った事は気にするな」

「わさびは東雲の嫁にはふさわしくありません」

 でもわさびは、この前紀糸と現れた沙也加(・・・)だって、ふさわしいとは思わなかった。

「それは、ろくにお前の事を知らなかった俺たちの落ち度だ。わさびは十分過ぎるほどに東雲の嫁にふさわしいよ。むしろ、今の時代に家の嫁などと言っているウチの親が古臭いんだ」

「紀糸は東雲に誇りを持っています。わさびはそれが凄いと思います」

 何世代にも渡り、その信念を曲げずに来たからこそ、今の東雲があるのだと、わさびは紀糸の頭の中を見ていて思った。

「わさび……」

「なんですか?」

 わさびの背中にある紀糸のアレが硬くなった。

「はぁ……お前が可愛いくて仕方ないんだが……俺の胸ポケットに入れて、四六時中側にいて欲しい」

「……わさびは紀糸の胸ポケットにはどうやっても入れません」

 おかしな事を言い出したので、そろそろお風呂から出たほうがいい気がする。





「紀糸、お仕置きプレイはまだですか?」

 紀糸も圭介も、いつもわさびの髪をドライヤーで丁寧に乾かしてくれる。二人とも『風邪をひくと悪いから』と言うのだが、風邪というのは、そんなにも恐ろしいものなのだろうか。

「……さっき風呂で散々しただろ」

 紀糸は入る前に脱衣場で1回、浴室で1回した。

「あれはただの生殖行為です」

「2回して、まだ足りないのか? 別にわさびはお仕置きされるほどの事はしてないだろ……俺に、なりきれ、とでも言うのか? (大体、誰がわさびにお仕置きプレイなんて教えたんだ。そいつにお仕置きが必要だ)」

 その考えに、わさびはハッとする。圭介が危ない。

「圭介にお仕置きプレイするのですか? わさびにお仕置きプレイを教えたのは、圭介です」

「しない……ほら、こっちに来て尻を出せ。そんなにお仕置きしてほしいなら、お尻ペンペンしてやる」

 紀糸はベッドに座り、わさびに手招きをしていた。
 でもわさびは思った。


「……紀糸、お尻ペンペンは、お仕置きプレイではなくて、“幼児プレイ”です」

「……」

 紀糸は、もう嫌だ、と枕に突っ伏した。


 
< 46 / 57 >

この作品をシェア

pagetop