キミに憧れたから
私達3人の中に気まずい雰囲気が流れる。

『とりあえず…ペアの人に挨拶でもしにいきますか?』

詠のその言葉で、無言で廊下を歩くだけ。

まさか私のペアが、あの蜂屋くんだなんて。

私の憧れである人とペア…こんなことがあってもいいんだろうか。

今日は挨拶があるから、まだ校舎内に残っているはずだ。

正直後輩だから気まずいけど。

こればっかりは仕方ない。

「私達は自分の教室ね。初音は1年の教室に行かなきゃでしょ?」

「うん…」

「えっと〜…。が、頑張ってくださいね!!」

なかなかしゃべってくれないと有名なあの蜂屋くん。

不安しかないのだが。

「まあ、頑張ってみるよ。じゃあね、また明日」

「はい。また明日です!」

「また明日」

私達はいつものように別れて、1人になった。

マジで、今日の私変だわ。

いつも男なんて道具としか思ってないのに。

そもそも蜂屋くんに憧れるのも変な話なんだけど。

セミの音がうるさい。

でも外の景色がなぜかキラキラしていて、まるで別世界にでも来たような気分になる。

どうしてだろうね。

1年の教室について、私は教室の中に入った。

「ん…誰」

窓の近くに座っていたのは、蜂屋くんだった。

太陽の光をキラキラ通す茶色の髪、黒色の瞳に誰が見ても整っているとわかる顔立ち。

これで頭もいいなんて。

もう文句なし。

「もしかして…七瀬先輩?」

「あ、うん。そうだよ」

どうしてだかいつものように笑えない。

なんで、どうして。

確かに笑えてはいるけど、何かが違う。

脈打つ心臓の音も、彼に対する感情も表情も。

「へー。まあ、これからよろしく。じゃあね」

「えっと、こちらこそよろしくね!」

彼は私の頭をポンっとしてから、横を通り過ぎて帰ってしまった。

「何今の…」

あんなこと慣れてるはずなのに、ドキドキがおさまらない。

きっとこれは彼への憧れのドキドキ。

それ以上もそれ以下もないんだから。

「最悪」

帰り道電車に乗っている間も、彼のことだけを考えてしまっていた。

ここまでなる?

本当に最悪。

そんなことがあっても、私のいつもの日常はくずれない。

家に帰ってからは夕飯の支度をして風呂に入る。

今日は帰ってくるのが早かったから、19時には寝れるようになった。

母さんは21時過ぎに帰ってきて、22時には寝る。

それまで私は仮眠をとる。

なぜなら夜、母さんが寝てから私は出かけるから。

帰ってくるのは2時とかかな。

絶対に日付が変わる前には帰らない。

まあ、補導対象の時間だし本当はダメなんだけどね。

でも、たまに例外の日があって。

今日はクレーンゲームでもやって、23時半くらいには帰ろうかな。

そんなことを考えながら私は眠った。
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