石楠花の恋路
目の前には自動車が一台。その周囲には物珍しそうな目で車体を眺める人々がいて、自動車に乗り込んだ少女は一躍町の話題となった。菅沼夫妻が長津家の別荘の留守居であることはこの町の誰もが知っているが、この日初めて現れたモダンガールは人々の興味を掻き立てた。
自動車は五分ほど走って停まる。窓から見えるのはほんの少しの民家のほか広大な果樹園と山の遠景ばかりであったが、反対側には黒々とした大きな鉄扉があり、門番の立っているのが見える。さらにその向こうには木々に囲まれるようにして佇む煉瓦造りの洋館があった。自動車の扉を開けると轟くような木のざわめきが聞こえ、一気に森の香りが押し寄せる。
「伊坂様、遠方よりの長旅お疲れ様です。門番の小野木と申します、どうぞ中へ」
大きな門が気だるい唸りを上げて開く。頭を下げる門番を横目に敷地へ入ると、見上げるほどの大きさの洋館がどっしりと構えていた。
「まあ……!」
重厚な扉を開けた先に広がるのは、床一面にアラベスクの絨毯が敷かれ、その繊細な意匠の光る控えめな装飾のシャンデリアが煌めく玄関。中央の円いテーブルには、目の覚めるような桃色の山茶花が飾られていて、甘い香りを漂わせている。
「綺麗な山茶花ですね」
「裏の森に咲いたのを活けました、良い香りでしょう」
少女と老婆は柔らかな笑みを浮かべてその可憐な花を見つめている。
「お茶にしようか、私は部屋の案内をしてくるからあれを出してくれ」
「はあ、居間に用意しておきます」
自動車は五分ほど走って停まる。窓から見えるのはほんの少しの民家のほか広大な果樹園と山の遠景ばかりであったが、反対側には黒々とした大きな鉄扉があり、門番の立っているのが見える。さらにその向こうには木々に囲まれるようにして佇む煉瓦造りの洋館があった。自動車の扉を開けると轟くような木のざわめきが聞こえ、一気に森の香りが押し寄せる。
「伊坂様、遠方よりの長旅お疲れ様です。門番の小野木と申します、どうぞ中へ」
大きな門が気だるい唸りを上げて開く。頭を下げる門番を横目に敷地へ入ると、見上げるほどの大きさの洋館がどっしりと構えていた。
「まあ……!」
重厚な扉を開けた先に広がるのは、床一面にアラベスクの絨毯が敷かれ、その繊細な意匠の光る控えめな装飾のシャンデリアが煌めく玄関。中央の円いテーブルには、目の覚めるような桃色の山茶花が飾られていて、甘い香りを漂わせている。
「綺麗な山茶花ですね」
「裏の森に咲いたのを活けました、良い香りでしょう」
少女と老婆は柔らかな笑みを浮かべてその可憐な花を見つめている。
「お茶にしようか、私は部屋の案内をしてくるからあれを出してくれ」
「はあ、居間に用意しておきます」