石楠花の恋路
「否定せんということは、そういうことか。どうしたもんだかなあ、 我々も我々で任務がある。君の気持も分からんでもないが……」
渋る様⼦の⼤尉を前に、正博は突然頭を下げた。
「どうか、彼⼥は私の希望の⼥性(ひと)なのです。此⽅の任務を妨げてしまうことも承知です、ただ、彼⼥が居なくなってしまえば私はこの先どうして⽣きていけばよいか、きっと分からなくなる。彼⼥を甲州に送るというのも苦渋の決断でした、東京よりは此処のほうがまだ安全だろうと、そう思っての決断です。どうか、⾝勝⼿な願いですがひとつご協⼒いただけないでしょうか」
⼤尉もこの願いようでは拒否できず、
「……まあ、協⼒してやろう」
(うなず)いたのであった。
その話を終えて⼆⼈が部屋を出ると、騒然としていた廊下はしんと静まり返り、研究所の者は⽬深に軍帽を被り闊歩(かっぽ)する正博の背中を⾒届けるばかりであった。
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