伝えたい想いは歌声と共に

プロローグ1

 それはまだ、私、藤崎藍が小学三年生の頃。近所の公園で一人で遊んでた時だった。
 肩にかかるくらいに伸ばした髪を、突然後ろからクイッと引っ張られる。
「きゃっ!」
「よう藤崎。お前の頭に黒い影がくっついてるぞ!」
 振り返ると、そこにいたのは同じ小学校のクラスメイト、三島啓太。
 ビクッて怯えると、三島はニヤニヤって意地悪そうに笑う。
「こりゃ幽霊に取り憑かれてるな」
「やっ! 変なこと言うのやめてよ!」
 まただ。
 何でかわかんないけど、三島は事ある毎に私にちょっかいをかけてくる。
 今みたいに幽霊に憑りつかれてるって言ってくるの。
 けど頭の周りを見ても、何もない。
「幽霊なんていないじゃない」
「そりゃ、藤崎には見えないからな。けど前から言ってるだろ。俺は幽霊が見えるんだって」
 三島の家はお寺をやってて、普段から、霊感があって幽霊が見えるんだって言ってるの。
 そんなの、本当かなんてわかんない。けど、怖いのは確かだった。
「あっ。今度は肩に手を置いたな。それに首を掴んできた」
「────っ!」
「やっ!」
「この幽霊、よっぽどお前のこと気に入ったんだな。もう二度と離れないかも」
 そんなの嫌!
 幽霊に取り憑かれるのも、三島にイジワルされるのも、すっごく嫌だった。
「もうやめて! 三島なんて嫌い!」
 嫌な気持ちがどんどん大きくなって、目に涙が溢れてくる。
 それを見て、三島がギョッとする。
「な、泣くことないだろ。幽霊が怖いなら、俺が追い払ってやるから」
 三島がそう言うけど、一度出た涙は止まらなかった。
 そんな時だった。
「藍、どうしたんだ?」
 急に名前を呼ばれて、声がした向く。
 そこにいたのは、白っぽい肌に、スッと鼻筋の通ったキレイな顔立ちの、とってもかっこいい男の子。
 紺色のブレザーに薄いグレーのズボンっていう、この近くにある中学の制服を着ていて、肩には黒いケースを掛けている。
「ゆ、ユウくん……」
「泣いてたみたいだけど、大丈夫か?」
「う……うん」
 慰めるように、私の頭を優しくなでてくれる。
 それだけで、さっきまでの嫌な気持ちや流れてた涙が、だんだん引っ込んでいく。
「あ、ありがとう。ユウくん」
 私がユウくんって呼んでるこの人は、有馬優斗くん。
 歳は私より五つも上の中学二年生。うちの近所に住んでいて、小さなころから面倒を見てくれた、お兄ちゃんみたいな人だった。
「どうして泣いてたんだ?」
「あのね、三島が、私に幽霊が取り憑いてるって言うの」
「あっ、てめえ!」
 三島が声をあげるけど、私はさっきみたいに怖がったりしない。
 ユウくんの後ろにサッと隠れると、それだけでもう大丈夫だって思えた。
「幽霊か。そんなの見えるなんて、霊感少年だな」
「お前、信じてねえだろ! おい藤崎。お前は信じるよな! でないと、幽霊が悪さしても助けてやらねえぞ」
 怒ったように叫ぶ三島。だけど、何を言われても、もう怖くない。
「その時は、ユウくんに助けてもらうからいいもん! ね、ユウくん。助けてくれるでしょ?」
「ああ、そうだな」
 ユウくんはまた、私の頭を優しくなでる。それから三島を見て静かに言った。
「なあ、霊感少年。もう少し優しくしたらどうだ。好きな子をイジメたって、振り向いちゃくれないぞ」
「なっ、なっ、なぁ───っ!」
 その途端、三島は今まで怒ってたのが嘘みたいに狼狽える。
 顔が今にも爆発しそうなくらい真っ赤になる。
「くそっ、覚えてろよ!」
 ブ、ブス!?
 結局三島は、それだけ言って走っていっちゃった。好きな子って、何のことだろう。イジワルするくらいだから、三島は私のこと嫌いだよね?
 まあいいや。それより、ユウくんにお礼を言わなきゃ。
「ユウくん、助けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
 ユウくんが笑うのを見て、ちょっとだけ顔が熱くなる。優しくて大人なユウくんは、私にとってお兄ちゃんみたいな人。
 けどそれだけじゃないの。
 ユウくんは、世界で一番大好きな、初恋の人だった。
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